贅沢貧乏『おわるのをまっている』【中井美穂 めくるめく演劇チラシの世界】
プロセスを開示するおもしろさ
中井 SNSで公開されているアニメーションも素敵ですよね。 渡部 白村さんが線を描いてくれて、私が動かしました。音楽も絵コンテだけでドンピシャのものを作っていただいて。 山田 音楽担当はこれまでの公演の音楽を何度も作ってくれている、私の大学の同級生です。 中井 2組の同級生コンビによってできあがった映像ですね。アニメーションによるプロモーションも珍しいですが、今回の作品で本読みや身体づくりなど、稽古の模様を公開されているのは面白い試みですね。(編集注:本公演のクリエーション過程を公開する「贅沢貧乏の稽古場をひらく会」を7月から開催している) 山田 本番は演劇のほんの一部なので、過程を公開してみようと。本稽古に入る前の台本を書いている途中の打ち合わせ、俳優のためのワークショップ、美術や照明の打ち合わせ。こんなコアな部分をお客さんがどれくらい楽しんでくれるんだろうと思いましたけど、意外と舞台美術に興味を持った建築系の方が来てくださったりして、ちょっと広がったのかなと思います。 中井 今回の記事も、その一環の「チラシづくりのプロセス開示」として楽しんでもらえたら。 山田 うれしいです! 中井 今回のキャストでは、やはり銀粉蝶さんの参加が目を惹きますね。 山田 以前共演させていただいたことがあって、素敵だなと思っていたんです。脚本を書く中で、「この役には銀さんがぴったりだ」と思ったのでドキドキしながらオファーをしたら、「劇団というものが好きだから」と快諾くださって。 中井 素敵な俳優さんですよね。楽しみです。 山田 稽古場に銀さんがいてくださることですごく勉強になります。 中井 白村さんと渡部さんは脚本を読んだうえで演劇を観るのは今回が初めての体験になりますね? 白村・渡部 楽しみです。 中井 演劇って、生きている人が目の前で演じている、生身の身体がそこにあるということに価値があると思っていますが、先ほど白村さんの原画を見せていただいたときの高揚感は、「本物がここに立ち現れる」という意味で演劇と似ている気がします。 白村 うれしいです。 中井 演劇のチラシ、またやってみたいですか? 渡部 ぜひ! 中井 この連載を長くやっていますけど、チラシをつくる段階で台本ができていることはかなり珍しいですよ(笑)。 渡部 そうなんですね。 山田 私もまず何もないところからチラシだけ作って、「こんな公演にしよう」とチラシからインスピレーションを得て書き進めたこともあります。 中井 ですよね! 最初から、たとえば白村さんが絵を描いて、それを基に山田さんが脚本を書く、そこから始まるような公演があってもいいかも。 渡部 それいいですね! 山田 中井さん、ぜひプロデュースしてください(笑)。 取材・文:釣木文恵 〈 公演情報 〉 [世田谷パブリックシアター フィーチャード・シアター2024] 贅沢貧乏『おわるのをまっている』 作・演出:山田由梨 出演:綾乃彩 薬丸翔/大竹このみ 田島ゆみか 青山祥子 武井琴/銀粉蝶 日程:2024年12月7日(土) ~12月15日(日) 会場:東京・シアタートラム 〈 プロフィール 〉 山田由梨(やまだ・ゆり) 東京都出身。作家・演出家・俳優。立教大学在学中に「贅沢貧乏」を旗揚げ。以降すべての作品の作演出をつとめる。2017年『フィクション・シティー』、2019年『ミクスチュア』で岸田國士戯曲賞にノミネート。Abema TVオリジナルドラマ「17.3 about a sex」「30までにとうるさくて」、NHK「作りたい女と食べたい女」等で脚本を担当。WOWOWオリジナルドラマ「にんげんこわい」で脚本・監督として参加するなど近年は映像作品や小説執筆など活動の幅を広げている。セゾン文化財団セゾン・フェローI。 白村玲子(はくむら・れいこ) 愛知県出身。女子美術大学卒業後、ハッピー・バースディ・カンパニー入社。唐仁原教久氏に師事。退社後、現在はフリーランス。2013年、2023年東京TDC賞入賞。2021年HB FILE COMPETITION vol.31仲條正義特別賞受賞。 渡部沙織(わたべ・さおり) 東京都在住。グラフィックデザイナー。10inc退社後、現在はフリーランスに。グラフィックデザインの他、アニメーションの製作などを手がける。デザイナー・西川©友美(にしかわ・ちょも・ともみ)とともに映像クラブ「86chans」としても映像作品を制作。 中井美穂(なかい・みほ) 1965年、東京都出身(ロサンゼルス生まれ)。日大芸術学部卒業後、1987~1995年、フジテレビのアナウンサーとして活躍。1997年から2022年まで「世界陸上」(TBS)のメインキャスターを務めたほか、「鶴瓶のスジナシ」(TBS)、「タカラヅカ・カフェブレイク」(TOKYO MX)、「華麗なる宝塚歌劇の世界」(時代劇専門チャンネル)にレギュラー出演。舞台への造詣が深く、2013年より2023年度まで読売演劇大賞選考委員を務めた。