【深層ルポ】記者が原子炉の下で感じたこと 廃炉・“処理水”放出の現場は今…福島第一原発
■実は津波後も稼働していた1台の非常用発電機 しかし…
外に出て5、6号機の周辺を車で移動していると、木野参事官が1つの建物を指さした。 経済産業省資源エネルギー庁 木野正登参事官 「あれは、6号機の非常用ディーゼル発電機ですが、これだけは少し高い場所にあったために津波で冠水せずに機能していたんですよ。よく、SBO(ステーションブラックアウト、全交流電源喪失)だったと言いますが、実は1つだけ発電機が残っていたんです。」 “この電力を1~4号機に融通できなかったのか…”と考えてしまうが、そもそもこの6号機の非常用発電機から、事故が起きた南側の4基の原発に送電する設計にはなっていなかった。また、発電機の出力などを考慮すると、この1台で1~6号機すべての原発をまかなうのは難しかったとみられる。 しかし、この非常用発電機が機能していたおかげで、5、6号機の使用済み燃料プールの冷却などが継続できたことを考えると、有事を想定した非常用電源の設置場所などがいかに重要かを思い知らされる。
■進む“処理水”の海洋放出 立ち並ぶタンク
福島第一原発に関連して、今年最も注目されたのは、“処理水”の海洋放出だろう。 おびただしい数のタンクは1000基以上。総容量はおよそ137万トンに及ぶ。 核燃料を冷やすために入れた水や、流れ込んだ地下水が放射性物質に汚染され、発生し続けている汚染水。これを、多核種除去設備、通称「ALPS(アルプス)」で大半の放射性物質を取り除いている。 ただ、木野参事官によると、実は放射性物質の除去が十分にできず、まだ基準を満たしていない“処理途上水”の状態のものが約7割だという。これらは、再度ALPSにかけて、基準を満たした“処理水”にする必要がある。 海洋に放出する“処理水”は、無数に並ぶタンクとは少し離れた場所に分けて保管され、事前の成分分析などが行われる。“処理水”はALPSでは取り除けない放射性物質「トリチウム」(三重水素)を含むが、海水で薄められ、国の基準の40分の1の濃度にして、8月から海洋に放出されている。