日本農業の舵切り替わった──種子法廃止は民間参入促進? それとも外圧?
「種子法(主要農作物種子法)」廃止で何が変わるのか、を追う連載。2回目は国の狙いと方向性を整理します。種子法廃止と引き換えに国が促そうとする「農業の競争力強化」とは。その先に広がる「農」の未来とはどんなものなのでしょうか。
「規制改革」会議からのスピード決定
種子法の廃止は、この法律そのものの議論から始まったわけではありません。 2016年9月から開かれた内閣府の規制改革推進会議「農業ワーキング・グループ」。ここで「世界に通用する農業」を発展させるために、牛乳・乳製品の生産や流通に関する規制改革とともに、「生産資材価格」が高止まりしている仕組みを見直すべきだという方針が示されました。 ここで言う「生産資材」には肥料、農薬、農業機械や段ボールなどと並んで「種子」も含まれています。9月の2回目の会議資料には、それらと対応する法規制がリストアップされ、種子法を「民間企業が種子産業に参入しにくい」障壁だと指摘。そして10月の第4回会議で、以下のように明記した資料が出てきます。 「戦略物資である種子・種苗については、国は、国家戦略・知財戦略として、民間活力を最大限に活用した開発・供給体制を構築する。そうした体制整備に資するため、地方公共団体中心のシステムで、民間の品種開発意欲を阻害している主要農作物種子法は廃止する」 この資料には「総合的なTPP関連政策大綱に基づく『生産者の所得向上につながる生産資材価格形成の仕組みの見直し』及び『生産者が有利な条件で安定取引を行うことができる流通・加工の業界構造の確立』に向けた施策の具体化の方向」というタイトルが付いていました。 時はアメリカ大統領選挙の約1カ月前。まだドナルド・トランプ大統領は誕生しておらず、TPP(環太平洋パートナーシップ)協定は米国の加盟を前提に発効の手続きが進んでいたというタイミングです。 この後、会議はトントン拍子に進むと同時に、11月には政府が決定した「農業競争力強化プログラム」にも種子法廃止の方針が盛り込まれました。年が明けて2017年2月には「主要農作物種子法を廃止する法律案」の国会提出が閣議決定、3月から衆議院の農林水産委員会に付託され、約5時間の審議を経て衆議院を通過、参議院でも5時間の審議と2時間の参考人質疑を経て、4月11日に参議院本会議で可決、成立しました。 最初のワーキング・グループで議題に上ってから、約7カ月。65年の歴史を持つ法律はあっさりと廃止が決まり、2018年4月をもって役割を完全に終えることになったのです。