日本農業の舵切り替わった──種子法廃止は民間参入促進? それとも外圧?
「外圧」は否定する農水省
「正直、最初はほとんど関心を持たれていないと思っていました」 廃止決定の過程を知る農水省職員は、こう明かします。法の当事者である都道府県からは特に意見聴取をしていなかったため反応は薄く、マスコミも「関心はない」ものだと感じていたそうです。 しかし、波紋は徐々に広がり、専門家や市民団体の中からも反発の声が上がり始めました。その主張や立場には幅がありますが、前述のようにTPPとの関連で米国を中心とする多国籍バイオ企業の意向が反映しているとの見方が浮上。メディアでも「種子法廃止の裏に米政府と多国籍企業の影」「外国企業による“種子支配”」などとセンセーショナルに報じられるようになりました。 これに対して、「外圧ではない」と言い切るのは、農林水産省政策統括官穀物課の堺田輝也課長です。 2017年12月に都内で開かれたNPO法人主催のシンポジウムに登壇した堺田課長は、多国籍企業などの影響を否定した上で、次のような点を強調しました。 「例えば米について、産地や都道府県は高価格帯中心の一般家庭用の米、つまり『ブランド米』を生産する意向が強い。一方で買い手は『中食』や『外食』が増えて低価格帯中心の、業務用などにも対応した米を求めており、ここに『ミスマッチ』が生じている。民間はニーズの先を見ているから、価格はほどほどだけれど、収量の上がる米をもっと多くつくりたい。しかし、種子法によって都道府県と民間企業の競争条件が対等になっていなかった」 そこで種子法をなくし、種子生産に民間企業の参入を促すのが国の狙いの一つだというのです。 ここで想定される民間企業とは「国内か国外かは問わない」。ただし、「外資が参入する動きはない」と農水省は見ています。もしあったとして、その取り組みが適正かどうかは「国益にかなっているかどうか」で判断するそうです。 では、その「国益」とは何でしょうか。ここで関係するのが「農業競争力強化支援法」。種子法廃止と同時に成立したこの法律は、日本の農業が将来にわたり発展していくために必要な「良質かつ低廉な農業資材の供給」と「農産物流通の合理化」を実現するため、国の責任や施策を定めるものだとしています。 つまり、国は種子法と入れ替わりに新たな法律をつくり、日本の農業が向く舵も大きく切り替えたのです。