「天皇の処刑」に備えた作戦のため「選抜された隊員たち」に、なぜか「自決」が命じられたワケ
誇りに満ちた言葉
戦争を振り返ってどう思いますか? という私の問いに佐々木原は、 「『戦争とは何か』、とか、あんまり気の利いたことは言いたくないんですわ。戦争をくぐり抜けてきた人間としたら、戦争は起こすもんじゃないとは思います。勝っても負けても、その惨禍は想像を絶するものがありますからね。しかし、現実に戦争が世の中からなくなるということは、考えられないんじゃないか。 戦争をどう思いますか、と聞かれても答えようがない。世界中が平和になるか、というとならないじゃないか。いまも世界中、戦争の渦巻きじゃないか。 日本が戦争を放棄したら戦争が起こらなくなるわけじゃない。国それぞれに利害があって、宗教や人種や思想もちがう。そういう前提に立ってものを言わないと、『戦争をしない国』という概念的なものだけで国家を律し去ろうというのは大きな間違いなんじゃないかと思います。かつての帝国陸軍のように、世界を知らず独善的になっちゃ困るんですが、即発の事態への対応力を失ったら国は滅亡しますよ」 と言い、なおも言葉を継いだ。 「私らは戦っていたときに、はっきり言って『天皇陛下のために』なんて思ったことはありません。そのために死ぬなどというのはまやかしだと思っていましたから。 『上御一人』なんて、あれは陸軍の思想ですよ。海軍はもっと大らかだったんじゃないですか。そんな思想で縛られなくても、われわれは国民の負託を受けて、そのために戦う。いつどこで死ぬかはわからないが、それでいい、そんな気持ちでしたよ」 佐々木原は平成17(2005)年、死去。いまも「プロの戦闘機乗り」としての誇りに満ちた言葉の数々を思い出す。
神立 尚紀(カメラマン・ノンフィクション作家)