「我が子の生活に合わせられる」別の仕事も経て、復職した保育士が語る 保育現場の利点と課題 #こどもをまもる
60代で復職「午前だけ働き、体調管理」
70代のBさんは、60代のころに保育士に復職した。週5日、午前8時から12時まで保育園で働いている。3歳未満児を担当し、若い保育士のサポートをするよう心掛けている。 短大を卒業後、保育士として数年働いたが、結婚を機にやめ、専業主婦になった。子育てが落ち着いた40代からは、高齢者や障害者の施設で働いた。 「60代のころ、昔働いていた保育園の先生から、人手が足りないと誘われたんです。子育て中も、保育への思いはありました。高齢で大丈夫かと心配でしたが、子どもたちと接するのは喜びがある。若いころの勉強や経験が自分の中に残っているんだ、と楽しく働けてありがたい。生きがいになります」 それでも、賃金に対する仕事量と責任の重さに、思うところはあるという。 「メディアでも、保育園で事故があるとバッシングされる。潜在保育士は、情熱はあるのに、保育の現場に戻ろうと思えないですよね。 人生経験を積んでから復職すると、自分の子も孫も育てて、気持ちにゆとりがあり、保育園の子が泣いていてもかわいい。経験者、ゆとりのあるスタッフが現場に増えれば、正職員も楽になるし、働く人の間に笑顔が生まれます」 特にバイタリティーのあるBさんでも、働き方にメリハリをつけている。「午前中は、すごく元気。だから安全に気をつけて、楽しく働く。でも体力はもたないので、午後は休憩をとる。そうやって調整しながら、できるだけ働き続けたいです」
復職プログラムで学び直し、背中を押す
神奈川県の鎌倉女子大では、2016年度から、潜在保育者プログラムの講座を開いている。地域で保育士として働くために、コミュニティーとネットワークづくりを助け、再び働く人の背中を押す目的だ。「絵本と実践」「運動あそびと実践」「保護者とのかかわり」など、7回にわたって保育の基本マインドとスキルを学ぶ。さらに保育現場の動画を見たり、園長の話を聞いたりして現在の現場を知る(コロナ禍前は現地訪問)。最後は、地域の経験豊富な保育者とのグループトークで、仕上げていく。 取りまとめている短期大学部の小泉裕子教授によると、保育士は養成校を卒業、あるいは都道府県で実施する資格試験で保育士資格を取得した後、都道府県に登録申請し、保育士として働くことが可能となる。厚生労働省の資料では、2020年の登録者は約167万人で、働いている従事者約64万人を差し引くと、潜在保育士はおよそ100万人いる。 「専門学校や大学に入って保育士になろうという人は現在、減少傾向といわれますが、一方で試験を受けて保育士になろうとする中高年者が増えています。養成校保育士は毎年4~5万人、試験保育士は年間2万人を越える合格者が出ており、合わせて6万~7万人の新たな保育士が生まれています。その一方で1割近くが何らかの理由で離職します。資格を持っていながら働いていない保育士が100万人もいるのなら、何とか手を打ちたいと、潜在保育士という言葉を世に出して、様々な対策をしてきました」 このプログラムに参加した保育士の女性に、感想を聞いた。 「現場では、預かるだけから主体的な保育に変わり、変化のスピードが速い。この講座で、保護者への傾聴や信頼関係のつくり方、繊細な保護者への共感と提案、発達障害の対応、デジタル化などについて学びました。保育の実践を勉強し直し、今の現場を知る機会があると、ためらっている保育士も働く気持ちになりやすい。志のある仲間もできました」 小泉教授は、「復職の意思は強いけれど、パートタイムで、つまり生活基盤を損ねない範囲で、子育てや介護をしながら仕事との両立を図りたいという潜在保育士がかなりいる」と指摘する。 「バリバリ働きたい層がたくさんいるわけではないんです。だから、役割の幅を広げて柔軟に考える必要がある。専任の長時間労働で、担任を持って保護者支援から何でもやるスーパー保育士を目指すのではなく、働き方改革の提案です。フルタイムの保育士を100%期待していたら、取り込めない。国が決めた配置基準があるため、フルタイムの専任保育士は必須ですが、さらに保育補助やお手伝いの人をどうやって増やしていくか。各保育所も、そうした多様な働き手を求め、あらゆる手を尽くして公募しています」