登場人物のほとんどは騙された「被害者」…”地面師事件”の捜査を難航させる「複雑すぎる」手口
「仮登記抹消」の請求訴訟
繰り返すまでもなく、ニセの海老澤佐妃子と海喜館の売買予約契約を交わし、法務局で登記簿に仮登記したのが、IKUTAである。登記簿上、売買予約を済ませ、取引窓口になったIKUTAは、近藤久美(35)という女社長が代表取締役となっているが、会社のオーナーは生田剛(46)という。この2人もまた、偽造有印私文書行使などの容疑で逮捕された。取引の直接窓口となった中間業者である。 佐妃子の異母弟として海喜館を相続したはずの名取兄弟は、IKUTAに所有権移転の仮登記を外してもらわなければ、海喜館を自由にできない。が、善意の第三者を主張するIKUTA側は、なりすましの事実が判明してなお、「当時はニセ佐妃子が真の所有者だと信じていた」と仮登記の抹消手続きに応じなかった。 そこで名取兄弟は売買予約の「仮登記抹消」の請求訴訟を起こしたのである。訴訟は彼らが逮捕されるまで続いた。もとよりIKUTA側の主張はでたらめだが、現場で何があったか、裁判によりことの経緯を知ることはできる。 この民事裁判資料を参考にしながら、海喜館がいかにして地面師たちの手に落ちたのか、その詳細を追ってみた。 『「地面師」グループ内での取引先をめぐる対立…有名デベロッパーの元財務部長が「積水ハウスなんてちょろい」と言い切ったワケ』へ続く
森 功(ジャーナリスト)
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