ついに「1ドル=141円台」へ…米ドル/円の怒涛の急落は「一時的」か「円高トレンド」の始まりか→国際金融アナリストの回答
投機筋の動向は…
7月初めにかけて、161円まで米ドル/円が上昇した動きは、日米金利差から大きくかい離したものでした(図表4参照)。 金利差の「円劣位」が縮小しても、日米10年債利回り差で見ると、なお3%以上もの大幅な円劣位という状況は、円売りにとって圧倒的に有利なことに変わりない―、それが金利差の「円劣位」縮小を尻目に、投機筋が米ドル買い・円売りを継続した理由だったと考えられます。 そして、161円まで上昇した頃には、投機筋の米ドル買い・円売りポジションは、過去最大規模に膨らんでいました。それは、過剰な米ドル買い・円売りのリスクテークだったのかもしれません。 行き過ぎた米ドル買い・円売りのリスクテークの修正を始めたところ、日銀の利上げなどをきっかけに、それが勢いづいた可能性があります。その結果、米ドル買い・円売りポジションの手仕舞いに伴う米ドル売り・円買いが、7月初めの161円台から、ほんの1ヵ月で146円台まで、約15円もの米ドル/円急落をもたらした「プライムムーバー」だったのではないでしょうか?
今週の注目点=加速する米利下げ予想
この状況のなかで、米ドル/円は、足下で150円程度の52週MA(移動平均線)を大きく割れています(図表5参照)。 経験的には、円安トレンドのなかの、あくまで一時的な円高に過ぎないのであれば、52週MA前後までだといえます。ただし、52週MAを本格的に下回ってくるようであれば、すでに円安レンドは161円で終わり、数年続く円高トレンドへ転換した可能性が高くなります。 その意味では、目先の動きはまだギリギリ「一時的な円高」の可能性を残しています。さらに145円も大きく割れる場合、いよいよ円高トレンドへ転換した可能性が高まるという、重要な分岐点を迎えているといえます。 ところで、米ドル/円に大きく影響する米10年債利回りは、足下4.3%の52週MAを大きく割り込み、すでに金利低下トレンドへ転換した可能性が、高くなりつつあります(図表6参照)。 米金利低下がここに来て加速した背景には、米景気減速への懸念が高まったことが考えられます。これは、2日に発表された米7月雇用統計が、予想よりかなり弱い結果となったことが、ひとつの原因として挙げられるでしょう。 先週は後半にかけて、景気の先行指標でもある、米国の主要な株価指数も急落となりました。これを受け、米利下げについても、次回9月FOMC(米連邦公開市場委員会)前の緊急利下げや、0.5%以上の大幅利下げ予想も浮上してきました。 今週は、ISM(米供給管理協会)非製造業景気指数などの発表が予定されていることから、それらの結果や株価動向を受けて、利下げ予想の変化の有無が大きな焦点になりそうです。 一方で、投機筋の米ドル買いポジションについては、最近にかけての米ドル急落により、含み損が増えている懸念もあり、米ドル反発局面では、損失を確定する米ドル売りが上値を重くすることが予想されます。 以上を踏まえ、今週の米ドル/円の予想レンジは144~150円中心で、米ドル反発の限界を確認する展開を想定します。 吉田 恒 マネックス証券 チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティFX学長 ※本連載に記載された情報に関しては万全を期していますが、内容を保証するものではありません。また、本連載の内容は筆者の個人的な見解を示したものであり、筆者が所属する機関、組織、グループ等の意見を反映したものではありません。本連載の情報を利用した結果による損害、損失についても、筆者ならびに本連載制作関係者は一切の責任を負いません。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。
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