気遣いと精神力の人…コメンテーターが見たテレビには映らない小倉智昭さん「とくダネ!」最後の年の姿
■予期せず届いたお中元とお歳暮 テレビ出演の右も左も分からなかった私がようやく左右の区別くらいはつくようになってきた夏、自宅のチャイムが鳴る。何かネットで注文したっけ、と怪訝な顔で出たら、宅配便のお兄さんに大きな箱を渡され、そこには「お中元 小倉智昭」とあって、私は腰を抜かした。 人生で、自分があの小倉智昭さんからお中元をいただくという経験をするなんて、1ミリも予想しなかった。 これが、レジェンドクラスのメディア人の振る舞いなんだ。番組に協力してくれてありがとう、という言葉を形にして、ファミリーの中に招いてくださるということなんだ……。 ひたすら感銘を受けながら開けると、有名店のコーヒーセット。ちなみにその後のお歳暮は名品ハムのセットだった。もちろんご本人の手書きじゃないのはわかっているけれど、しばらくの間、私はその時の熨斗を捨てられずにとっていた。想像より騒がしい人生を過ごすことになってしまった自分の、何かのお守りになるんじゃないかって、そんな気がしていたからだ。 ■ホラー映画に「悪趣味だねぇ」 コロナ禍という実にイレギュラーな環境下にあったが、生放送の番組は常に刺激的で、毎回が学びに満ちていた。もちろん全国放送であるという緊張からしくじることも多く、毎回反省点ばかりではあったけれど、「河崎さんはどう思うの」という、小倉さんが私に話を振るお決まりのフレーズにも徐々に慣れていった。 「あ、ようやく今日、私はこの番組で小倉さんの魂に指先で触れさせてもらうことができたのかもしれない」。そう思ったのは、2020年秋から始まった「私の一本」コーナーだ。 自分が好きな映画や本などを、コメンテーターが視聴者に対して2分間でプレゼンするというコーナーだった。 自分の番が回ってきた生放送日、露悪的な私は、一般視聴者を対象とした朝の情報番組だというのに、ゴリゴリに怖いホラー映画を紹介するんだと意気込んでいた。それを聞いた小倉さんが、CM中に「いるんだよねぇ、女の人で、ホラー映画が大好きですとかいう悪趣味な人が」と苦笑してくれた。 「ホラー映画は悪趣味なんかじゃないです! もはや哲学ですから!」と言い返しながら、私は小倉さんが皮肉を装って愛のあるイジりをしてくれたのを感じていた。映画や音楽を愛するあまり、自宅にプロ並みのオーディオシステムで立派なシアターを作ったことでも有名な小倉さんらしい、映画を通じた一瞬の触れ合いだったと思う。