「娘2人の死を絶対に無駄にしたくない」 元担当検事が見た両親の覚悟 東名飲酒追突事故から25年
井上夫妻が許せなかった「情状酌量の理由」
当時、裁判所が法定刑の最高刑を出すことは、まずなかった。 せいぜい懲役2年6カ月か、3年程度の判決しか出さないのではないか。 そうなると検察内部で「求刑自体が不適切だった」と指摘される恐れがあり、今後の求刑の判断に大きな影響が出てしまうかもしれない… 公判部からはそんな懸念の声が上がった。 それでも内藤氏は「懲役5年」の維持を強く訴えた。 これ以上悪質な事案はないという思いからだ。 そして5月の論告求刑公判で、被告のトラック運転手に懲役5年が求刑された。 だが…
2000年6月8日、東京地裁が下した判決は、懲役4年。 井上夫妻にとってあまりに厳しい判決だった。 妻・郁美さんは当時の心境を、こう振り返る。 「もし求刑通りの懲役5年という判決が言い渡されていたら、私たちは『しかたがないよね、多分裁判官はもっと言いたかったけれど、法律の上限が懲役5年だから』と法律のせいにできたかもしれない。でも、決して長くもない懲役5年の上限から、何で1年も減らされてしまったのか」 この時、夫妻は裁判官の配慮で、通常は被害者には渡されない判決文の要旨を受け取っている。 それを読む中で、情状酌量の部分が2人の怒りを増幅させた。 「一番許せなかったのが『加害者にもその社会復帰を待ち望む妻子がいる』というところ。彼は生きているわけだから、何十年、刑務所に放り込まれても戻れるだけいいじゃないか。私たちの娘たちは戻ろうとしても戻れないんだから。なぜそれが加害者の情状酌量の理由になってしまうのか、全く理解できないと思いました」(郁美さん) そして記者会見。 郁美さんは感情を抑えられなかった。 奏子と周子の命の重さに比べて、懲役4年はあまりに軽いーー
“八掛け判決”は裁判所の満額回答だ
最高刑である懲役5年の求刑に対する懲役4年の判決。 その受け止め方は、司法関係者の間では全く違っていた。 保孝さんは判決が出た後の、ある弁護士の言葉をよく覚えている。 「『業務上過失致死傷罪で懲役4年というのは非常に重いんだ』と。そしてこうも言ったんですね。『求刑が懲役5年で判決が懲役4年というのは、いわゆる八掛け判決(求刑の8割の判決)といって、満額に等しいんだ』と」 「八掛け判決」とは初めて聞く言葉だった。 そして改めて思った。 懲役4年が、なぜ厳しい判決なのだろう… だが実は、懲役5年の求刑を提案した内藤氏もまた、懲役4年の判決に胸を撫で下ろしていた。 「率直に言って、最初に公判担当検事から懲役4年の連絡を受けた時、4年でよかったと喜びました。求刑の8割の判決は裁判所の満額回答だと検察として理解していました」 今後も悪質な事案には思い切った求刑ができる。 そういう安堵の気持ちがあったという。