考察『光る君へ』4話 五節の舞姫を務めるまひろ(吉高由里子)は気づいてしまった…花山天皇(本郷奏多)即位式に歴史ファンはハラハラ
道隆の静かな笑み
真心を尽くして仕えた円融帝から、毒を盛った首謀者の疑いをかけられた詮子。 彼女の絶望も悲憤も、父と兄達には届かない。 空閨をかこつ女が取り乱しただけと一笑に付されてしまう。踏み躙られた者の怒りが、悲しみが「楽しい催し」くらいで薄れるものか。女を舐めすぎである。 なにが「吞み直そう」だ、詮子の代わりに膳を蹴散らして暴れたろか。 この場面で瞬時に事態を理解し「結束が強まった」と微笑む道隆(井浦新)。さすが兼家の子、藤原北家の嫡男というべきか。穢れなき存在に……と何も知らせなかった兼家の思惑を遥かに超えている、権力者としての素地を彼は自力で養ってきたのではないか。そしてこの「我ら三兄弟の結束」であるが、恐らく道隆には、父・兼家が経験した兄弟間の確執が念頭にある。 3話で「わしも三男だ!」という兼家の台詞があったが、兼家は長兄が重病で関白を辞した後、次兄・兼通と関白職を巡り争った。関白となった兼通は弟である兼家を冷遇し出世を妨害、更に自分の死の間際には次の関白に弟でなく従兄の頼忠(橋爪淳)を指名。兼家を右大将から治部卿に格下げしたのち亡くなるという、念の入った復讐を遂げた。そこからドラマ内の時間では現状右大臣まで昇っている、兼家のしぶとさとガッツよ……兄弟とはいえ、いや兄弟だからこそか。権力を奪い合う戦いは激しく、その次の代にまで影響を及ぼす。 道隆は静かな笑みと気品ある態度を保ちながら、常に弟たちの動きを窺っている……のではないだろうか。 願望がわかりやすい道兼(玉置玲央)大丈夫か。今週も大丈夫かって言っちゃう。兄に思惑まで全て把握されてないか。 そして心根が優しく穏やかな道長は、この父、兄姉の有様を見て今後どうするのだ。
新帝のご趣味にハラハラ
歴史ファンがハラハラしながら見守っていた花山天皇(本郷奏多)即位式。何しろ花山帝は、高御座(たかみくら)の中に女官を引っ張り込んで不適切な行為に及んだという逸話の持ち主だからだ。三種の神器を前に厳かに儀式に臨まれる帝に、よかった……夜8時台に全国のお茶の間が気まずくなる事態は避けられたとホッとしたのも束の間、入内した藤原忯子(井上咲楽)との閨で彼女の手首を縛る帝。雅なお顔で粛々となさるので儀式の一環かと勘違いしそうだが、新帝のご趣味、単なるプレイである。 なにしてんの。 ただこれ、為時相手に6年間続けたような一種の「試し行動」なのではないか。忯子が静かに頷き、帝のなさることを全て受け入れたからこその、その後のご寵愛ではと思っている。 花山帝が高御座で女官とコトに及んだ……というのは『古事談』に書かれ、他の奇行についても『大鏡』などに記されているが、花山帝を貶めるための捏造だとする説がある。このドラマ内では、道隆の「無類の女好きという噂を流します」という場面が先にあり、その効果が出て左大臣・源雅信(益岡徹)の耳にまで届き、忯子の兄・斉信(金田哲)にさえ病的な好色と言われている。 花山帝は世間の目を欺き、教師である為時の人柄を試すため、暗愚な女好きキャラをご自分で演出したがゆえにこんな噂を立てられてしまった。 ちやは(国仲涼子)殺害で父の道具として絡めとられた道兼といい、大なり小なり、自らの行いが自分を縛る枷となる作劇に見える。では、他の登場人物はこれからどうなるのか。 新帝の打ち出した「物の値段を為政者が決める」「帝自ら質素倹約を心がけ範を示す」は、いにしえの中国の皇帝、日本の天皇が行ってきた政策である。政は生物であるから、過去の政策をそのまま実行したからといって、その時代に即した善政になるとは限らない。が、「民たちも喜ぼう。そして朕を尊ぼう」。 東宮時代は為時の講義に熱心にお耳を傾け(授業態度は酷かったが)賢帝たちの逸話に胸躍らせていらしたかと思うと、いじらしい。癇癪を起こして側近の烏帽子を取り上げるなど大暴れだが、この作品の花山帝はかなりピュアなお人柄ではないだろうか。 しかし、側近・蔵人頭を固辞しようする実資(秋山竜次)といい、雅信からの入内提案を拒否する穆子(石野真子)と倫子(黒木華)母娘といい。この作品中随一、危機管理能力ありそうな人物たちが揃って花山帝と距離を置く選択をするのを見ると、帝の前途の暗雲を思わざるを得ない。