考察『光る君へ』4話 五節の舞姫を務めるまひろ(吉高由里子)は気づいてしまった…花山天皇(本郷奏多)即位式に歴史ファンはハラハラ
為時と乳母のやりとりに
まひろ父・為時、12年ぶりの官職獲得おめでとう。そしてさりげなく元服している太郎・惟規(高杉真宙)もおめでとう。 ところで、宴会のさなか厠に行く途中で乳母・いと(信川清順)の手を握り、 「お前にも、世話になった」 「殿…」 意味深な空気が一瞬漂ったこの場面。平安時代の貴族社会には「召人(めしうど)」がいたことを思い出す。妻とは別に、主人と性的な関係を結んだ女房のことだ。『栄花物語』『蜻蛉日記』などに、その存在を見ることができる。『源氏物語』では主人公・光源氏に仕える女房「中将の君(※この名の女房は複数登場する)」がそれにあたるだろうか。そして『源氏物語』第31帖【真木柱】では髭黒の右大将の女房「中将のおもと」「木工の君」という女性たちが、召人である自分たちの微妙な立場から複雑な心境を述べる場面がある。 為時と乳母・いととのやり取りに、深い意味はなかったのかもしれない。が、ドラマ内でも描かれているように強固な身分・階級制度が存在した時代の主従関係で、性行為への拒否権があったかさえ疑わしい召人たちに、名と言葉を与えた紫式部。彼女が主人公であるこの作品で、そうした女たちの存在を無視したりはしないのではと思っている。
五節の舞姫と紫式部
物語序盤のクライマックス、五節の舞姫。 私は嫌ですという倫子。父母である雅信と穆子は娘が好色な帝のお目に留まったらえらいことだと危惧するが、そもそも倫子はなぜ嫌なのか。映像作品としての演出上、ドラマではかなり緩くなっているが、当時の高貴な女性は基本的に異性に顔、姿を見られることはなかったのだ。重要な儀式とはいえ、深窓の姫君が人前に出るには抵抗があっただろう。 倫子の部屋に猫がいて紐で繋がれている。当時、高貴な人々に可愛がられていた猫はこの状態で飼われるのが一般的であったようだ。『源氏物語』第34帖「若菜上」では猫が紐で御簾を巻きあげて、女三宮がその姿を見られてしまう「事件」が起こる。そう。貴婦人の顔は人目に晒されるものではなかったというのが大前提としてある。 天つ風雲のかよひ路吹吹きとぢよ乙女の姿しばしとどめむ(僧正遍昭) (吹き渡る風よ、雲の中の天と地を結ぶ道、天女の帰り道を閉じておくれ。乙女たちの姿を、今しばしこの地上に留めておこう) 百人一首にあるこの歌は、五節の舞姫たちの美しさを愛でるものだが、見られる側の乙女はどんな心境だったろうか。倫子と同じく嫌だという姫もいれば、茅子と肇子のように、舞台上から素敵な公達を見つけて盛り上がる姫もいたかもしれない。 『紫式部日記』には、五節の舞姫に付き従う五節の童女を目にして、見物される少女たちに胸痛める式部の心境が綴られている。彼女自身が舞姫になったという記録はないが、ドラマのように経験者であると想像して読むと、また違った趣がある。 『源氏物語』第21帖「少女」では舞姫担当となった光源氏が、腹心の家臣である惟光の娘を出している。このエピソードからの着想か、まひろが倫子の代理をする、そして舞台から「三郎」――道長と道兼を発見する。母の仇である道兼と「三郎」の関係を知ってしまうという物語の運びは巧みで劇的だ。そして、道長自身は三郎の正体をまひろに知られたことに気づかず、且つ兄・道兼とまひろの因縁も知らないという……来週への引きが抜群である。 「道兼さま」と口にする時に憎しみを込め「道長さまなの」と衝撃を伝える。吉高由里子の演技が光るラストシーンだった。 次週予告。『蜻蛉日記』の作者と、その愛息登場! 次回も仲良し公達の集まりと倫子のサロンが楽しそう。過去の全てを知ったらしい道長。そして、胸が張り裂けそうなまひろの告白……第5話が楽しみですね。 ******************* NHK大河ドラマ『光る君へ』 脚本:大石静 制作統括:内田ゆき、松園武大 演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろう 出演:吉高由里子、柄本佑、黒木華、井浦新、吉田羊、ユースケ・サンタマリア、佐々木蔵之介、岸谷五朗、段田安則 他 プロデューサー:大越大士 音楽:冬野ユミ 語り:伊東敏恵アナウンサー