聖徳太子、実は「存在しなかった」説浮上。では、あの肖像画の人物は
じつは戦前からあった、聖徳太子不在説
聖徳太子がフィクションだなんて信じがたい。そう思う読者も多いはず。 が、じつは、これは戦前から言われてきたことなのだという。歴史家の久米邦武氏や津田左右吉氏、福山敏男氏などは、太子に関する史料は信憑性に乏しいとして、史実としての太子の業績に疑問を投げかけていた。 しかし、瀧川政次郎氏や坂本太郎氏といった歴史の大家が強く実在説をとなえ、とくに坂本氏が歴史教科書に深く関わったため、聖徳太子の実在説は定着したとされる。 いずれにせよ、大山氏の説が出ると、これに反発する学者たちも続々と登場、太子の存在をめぐって大論争が勃発した。 ただ、教科書の記述を見ればわかるとおり、大山氏ほど「太子不在説」を強く打ち出していないものの、有力な皇族だが太子が政治の主導者ではないことをはっきり理解できる文章になっている。つまり、学界の主流は大山説に傾いたことがわかる。
小学校ではヒーロー、高校では脇役と教えられる聖徳太子
しかし、もう一つ摩訶不思議(まかふしぎ)なことがある、と河合先生。現在の小学校社会科の教科書では、従来のように聖徳太子を偉人として扱っているのだ。 それには理由がある。文科省の学習指導要領に、「次に掲げる人物を取り上げ、人物の働きを通して学習できるよう指導すること」とあり、取り上げるべき四十二名の歴史上の人物の中に聖徳太子が含まれているのである。 「これは、2017年3月に公示され、2020年から完全実施された学習指導要領でも同じです。 飛鳥時代の大陸文化の摂取に関して『聖徳太子が法隆寺を建立し、小野妹子らを遣隋使として隋(中国)に派遣することにより、政治の仕組みなど大陸文化を積極的に摂取しようとしたことなどが分かる』よう指導せよと述べています。 このため、小学校では現在も、そしてこれからもヒーローなのですが、高校生になると、推古天皇の単なる脇役としての聖徳太子と出会うことになるのです。この矛盾を防ぐためには、小学校学習指導要領の学習するべき偉人の項目から聖徳太子を除いてしまえばいいのですが、それも簡単にはできないのですね」