学生卓球経験から感嘆するパリ五輪の銅メダル早田ひな、その試練と究極の強さ
フォアハンドでの勝負へ
サポーターをきつく巻いて練習を続け、そして試合にも臨んだ。しかし、身体の回転を使って打つフォアハンドはともかく、手首を返してのバックハンドがうまくいかない。それがとてもまどろっこしい。自分の手が自分でコントロールできないのである。さらに、手首の奥底が時おり疼く。今回の3位決定戦で、早田選手も手に負担の少ないフォアハンド中心の攻撃に切り替えていた。思いきり手を使うバックハンドが思うにまかせない状態での、苦肉の策だったと推察する。それだけ、卓球における手の自由度は"生命線"なのである。
執念の投げ上げサーブ
手の痛みはバックハンドだけではなく、変化をつけるサーブにも大きく影響する。ところが、早田選手は試合で、ボールを高く投げてから打つ"投げ上げサーブ"を使っていた。ここが勝負どころだと見ると、そのサーブを連発した。これには驚いた。ドライヤーさえも左手で持つことができなかったと試合後に明かした痛みの中、ミスをすることがなく正確に"投げ上げサーブ"を打つことができた。ゲーム前の治療、そして、左腕へのテーピングもうまくフィットしたのだろう。チームの勝利でもある。
勝利の瞬間、涙の理由
それにしても、オリンピックという大舞台で、これだけの痛みを抱えながらも、それを見事にコントロールして3位決定戦を勝ち切ったことは、本当に素晴らしい。サービスエースによって勝利を決めた瞬間、早田選手はしゃがみこんで涙を流した。それだけ過酷な時間、厳しい戦いだったのである。そして、相手の韓国選手も早田選手の異変を察していたのだろう。ゲーム終了後すぐに、早田選手を祝福する姿は素晴らしかった。 「神様にこんな意地悪をされるとは思わなかった」と早田選手は語った。しかし「大事なフォアだけは残してくれた」と続けて「この銅メダルは金メダルより価値がある」と締めくくった。2024年パリ五輪、早田ひな選手の胸のメダルは、ゴールド以上の輝きを放っていた。それはとても誇らしげに。 【東西南北論説風(514) by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】
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