いまある危機と光明。日本の魚食、一体どうなる!?(専門家が監修)
日本人の食事が欧米化しているといわれて久しい。ご存じの通り、魚介類の消費量は右肩下がりだ。かつては漁業大国といわれていた日本だが、近年は生産量も低下中。では、未来はどうなる?[取材協力/上田勝彦(ウエカツ水産代表)]
教えてくれた人:上田勝彦さん
うえだ・かつひこ/(株)ウエカツ水産代表取締役。東京海洋大学客員教授。長崎大学水産学部在学中に漁師として活動し水産庁に入庁。2015年に退職後、日本の食卓と漁業の現場を繫ぐ活動を展開。
右肩下がりの日本の漁獲類消費量
「日本では戦後しばらくまでは米と魚が中心の食生活でしたが、高度経済成長期に洋食や中華料理が食べられるようになり、食卓に並ぶものが魚から肉、米から小麦の割合が増えていったのです」と、魚の伝道師と呼ばれる元水産庁職員の上田勝彦さん。 国民1人1年当たりの魚介類の消費量は2001年度をピークに下がり続け、2011年にはついに肉類の消費量が上回り、その差は開く一方だ。 しかし、日本が小さな島国である以上、魚と上手く付き合っていくべきだと上田さんは言う。 「肉食を中心にするということは、他国に依存することにもなりますし、肉の生産を増やそうとしても限界があります。魚は島国日本の伝統食であり、食文化でもあります。常に身近に魚がある。そんな状態が合理的ではないかと思います」 日本人の魚離れは食い止めることができるのか。魚食の今を改めて見つめ直したい。
魚屋が減り大型スーパー中心に。食卓からの魚離れが進む
鮮魚小売業の店舗数は2014年の段階で約1万4000店。2007年と比較して約30%少なくなり、現在でも減少傾向は続く。消費者の魚の購入先は魚屋から大型スーパーへと移行した。スーパーの品揃えの特徴は一定価格、一定量、一定品質、一定規格のいわゆる“4定”。 「いつでも同じ魚を同じ価格で同じ量買えるというのは消費者のメリットのように思えますが、いいことばかりというわけではありません。食卓に並ぶ魚種は少なくなり、価格を抑えるためにクオリティが犠牲になることもあります」(上田さん) 魚屋での購入に比べれば“魚のことを知る、話す”機会も減る。豊かな魚食体験の減少が、長い目で見ると魚離れに繫がってしまうのだ。 海水温の上昇で魚が北上? 海洋酸性化で海の生産力も低下 2022年までの100年で日本近海の海面水温は、平均で1.24度上昇。その結果、魚の棲み処が北上しているという。 「九州や山陰が主産地だったブリは北海道でも獲れるようになり、フグの漁獲量の全国1位は福岡県でしたが、現在では北海道になっています」 温かい水温を好み千葉県や三重県で多く漁獲される伊勢エビは三陸でも獲れるようになった。このまま海水温の上昇が続けば、この現象は加速するはず。また、人間の活動によって排出される二酸化炭素を海が吸収することで起きている、もう一つの問題が海洋酸性化。既にウニ、サンゴ、甲殻類、貝類、プランクトンなどの繁殖、成長に影響が出ている。海の生産力も弱まってしまっているのが現状だ。