本質は「人を喜ばせるための笑い」――知られざるお笑い激戦地、沖縄芸人地帯を行く
独特のお笑い文化が育まれてきた沖縄。そのお笑いは新しいようで伝統に裏打ちされており、沖縄的であるようで非・沖縄的でもある。近年ではM-1で2位になったコンビやYouTubeの人気芸人などを世に送り出してきた。齢80を超えた喜劇の女王から若手のホープ、さらにせやろがいおじさんまで、沖縄芸人たちを直撃しその本質を探った。(ライター:中村計/撮影:西野嘉憲/Yahoo!ニュース 特集編集部、文中敬称略)
沖縄の「お笑い第七世代」
ボーダーレス化が叫ばれて久しい昨今、しかし、沖縄だけは今も「境界」が存在する。それはお笑いの世界も例外ではない。 恋人は米兵。沖縄の漫才師ならではの「ネタ」だった。よしもとエンタテインメント沖縄に所属する結成7年目のお笑いコンビ、ありんくりんのツッコミ担当のクリスが言う。 「バーで働いていたんで、いろいろな人とつながりがあったんです。でも米兵の彼女とは、1カ月で別れました。だって、デートが筋トレなんです。デートの約束をしたのに、トレーニングウェアで来るんですもん!」 日本人の母親とアメリカ人の父親の間に生まれたクリスは、NBAの名門、シカゴ・ブルズの真っ赤なユニホームが舞台衣装だ。
一方、濃い口ひげとあごひげを生やしたボケ担当のひがりゅうたは、頭に手ぬぐいを巻き、簡素な着物に身を包んでいる。昔の沖縄の暮らしを想起させる格好だ。 それぞれの見た目がいかにも沖縄的なコンビは、県内でもっとも伝統がある通称「O-1」こと「新春!oh笑い O-1グランプリ」で2019年、2020年と連覇を果たしている。ただ、漫才日本一を決めるM-1グランプリでは、まだ準々決勝どまり。「境界」はオリジナルを守る壁にもなるが、そのまま全国進出を阻む壁にもなっている。 彼らの強みは、その見た目だ。彼らは戦争にからめたボケを頻繁に繰り出す。たとえば、ひがが地面をまさぐっていると、クリスが「不発弾探してるの?」とツッコみ、爆笑を誘う。これは2人だから通用するのだとクリスが説明する。 「おきなんちゅ(沖縄人)が戦争批判みたいなことをやったら、角が立つし、かわいそうと思われるだけ。僕がいることで中和されるというか、バランスが保てている。僕ら、きっと売れますよ。キャッチコピーは『最後の第七世代』でお願いします」