「いつも同じ服ばかり着ている」と言われても いつか高級服着て旅へ 家族がいてもいなくても 久田恵(817)
栃木県那須町のサービス付き高齢者向け住宅から東京に戻ってきて、半年が過ぎた。あっという間だったな、と思う。 そして、私はあいかわらず1人で元実家の片隅でひっそり暮らしている。このひっそり感がいい。 それに、最近は、ご近所の高齢者ホームに出掛けて、ご飯を食べ、そこの入居者たちと親しくしている。おかげで寂しくない。 ホームに年中、入り浸っているので、今や自分も入居者の1人のような気分になりつつある。 先日は、このホームの本館のロビーで、秋祭りのようなイベントが開かれ、入居者や、その家族や近所の方々が大勢訪れた。その日は、まるで〝大バザー〟のように、いろんな方々から寄付された洋服や雑貨、瀬戸物などがホームのロビーに所せましと並べられていた。どう見ても高級品ばかり。それらが、なんと、来場者らに、ただ同然でどんどん手渡されていくのだ。もう、あっけにとられてしまった。 このようなイベントに参加するのは初めてだった。最初は、そのにぎやかさに圧倒されていた。そのうちに「いつも同じ服ばかり着ている」と周りの人から言われているのを思い出した。そうだ、驚いている場合ではない。そう思い直して、このときとばかりに高級服を手に入れることにした。ほかに焼きそばや焼き鳥なども用意されていて、ホーム中がお祭り気分。年に1度のこの秋のイベントがすっかり気に入ってしまった。 私は、もう少し仕事を続ける必要がある。 けれど、自分の好きなことだけをして暮らせるようになったら、このイベントで手に入れた高級服を着て、1人旅をしようと思う。そして、会いたい人に会いに行こう…、なんてことを夢見るように思った。(ノンフィクション作家 久田恵) ◇ ひさだ・めぐみ 昭和22年、北海道室蘭市生まれ。平成2年、『フィリッピーナを愛した男たち』で大宅壮一ノンフィクション賞受賞。介護、子育てなど経験に根ざしたルポに定評がある。著書に『ここが終の住処かもね』『主婦悦子さんの予期せぬ日々』など。