トランプ「反・気候変動」時代到来で思い出すべき、京都議定書での日本の過ち──蟹江憲史教授
トランプ政権は世界の環境問題をどう「引っかき回す」のか。ネガティブな予測がなされているが、日本のSDGsの第一人者である蟹江憲史・慶應義塾大学大学院教授は「日本にとってチャンスでもある」と言う
ドナルド・トランプの米大統領選当選に、アメリカのワシントンD.C.に住んでいる研究者仲間は「お通夜状態だった」と、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科の蟹江憲史教授は言う。世界経済だけでなく、世界の環境問題も、トランプが「引っかき回す」ことが予想されている。 【図表】世界の移住したい国人気ランキング、日本は2位、1位は... 気候変動の問題は、そしてSDGs(持続可能な開発目標)の行く末は、これからどうなるのか――。研究と実践の両面で環境問題やSDGsを中心に活躍する蟹江さんに、11月、インタビューを行った。 日本政府のSDGs推進円卓会議構成員なども務め、4年に1度、国連事務総長の任命を受けた世界の独立科学者15人のうちの1人として「持続可能な開発に関するグローバルレポート(Global Sustainable Development Report)」も執筆する蟹江さんは、国内外の情勢に詳しい。 ニューズウィーク日本版では2023年に、「日本企業のたとえ小さなSDGsであっても、それが広く伝われば、共感を生み、新たなアイデアにつながり、社会課題の解決に近づいていく――」という考えのもと、「SDGsアワード」を立ち上げた。2023年、そして2024年と、蟹江さんには本アワードの外部審査員を務めていただいている。 インタビューを、前後編に分けて掲載する(この記事は前編)――森田優介(ニューズウィーク日本版デジタル編集長)
「離脱はアメリカの利益にならない」
――2025年1月、アメリカでトランプ政権が発足する。11月の当選以来、環境分野に関してもさまざまな予測がなされてきた。産業革命前と比べて世界の平均気温上昇を2度以内に抑えることを目標とする「パリ協定」から離脱するだろうとも言われるが。 蟹江 本当にパリ協定から離脱することがアメリカの利益になるのか。そこは(トランプ次期大統領も)考えるのではないか。そして絶対に、アメリカの利益にならないと思う。 離脱してしまうと、カーボンマーケット(CO2排出削減量を取引する市場)から資金拠出、貿易まで、パリ協定の下でのルールメイキングに参加できなくなる。そうすると、4年間は石油を掘りまくって生き延びるかもしれないが、(次期政権の終わる)4年後にふたを開けたとき、アメリカに不利な状況になっているだろう。 中国も、アメリカがパリ協定から抜けてくれたら喜ぶはず。アメリカ経済にとって長期的に大きな損失になる。そうした意味でも、次の4年間に事態がどう進行するのかは非常に興味深い。 おそらく中国がこれから、いろいろなスタンダード(標準化)を狙っていくだろう。中国とヨーロッパが脱炭素の主導権を争う。その中で、もしアメリカがいなくなるとすれば、日本にもチャンスが回ってくると思う。 2001年にブッシュ米政権が京都議定書の枠組みから離脱したとき、日本もアメリカに倣って、サボタージュというか、その後、「京都」の名前の付いた国際合意にもかかわらず、これを推進しようとはしなかった。私は当時「これはまずい、このままだとせっかく出てきた日本の低炭素技術が他国に追い抜かれ、『うさぎとかめ』のうさぎになってしまう」と言っていたのだが、案の定、2000年代に中国とヨーロッパが開発を進め、例えば太陽光発電の市場は中国が取ってしまった。 世界の流れはもう決まっている。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、気候変動と人間活動との関係には疑う余地はないと言っている。トランプ氏が本気で疑っているのか、疑うふりをしているのかは分からないが。