マンネリ化し始めた「観光列車」 似たようなデザイン&サービスで本当にいいのか? 現代人を魅了するための「三つの逆転策」を考える
求められる「三つの逆転策」
それぞれについて、詳しく説明していこう。 ●地域の「旬」を取り入れる柔軟な仕組み 季節ごとに内装や食事メニュー、イベントを更新し、その時期にしか体験できないことを提供することで、リピーターを増やせる。筆者は、特別な車両を導入する必要はないと考えている。 既存の車両を活用し、季節ごとに装飾を変更し、食事やイベントを適宜入れ替えることで、低コストで観光支援ができると感じている。価値のある車両を生かして、車内で楽しい時間を過ごせるように、旬の要素を柔軟に取り入れることが重要だ。また、最近のデジタルトランスフォーメーション(DX)技術の進化により、プロジェクション技術を使って従来の車両のインテリアを柔軟に変えることもできる。特別な車両を使うとサービスが固定化される可能性もあるため、柔軟に対策することが求められる。 ●ターゲット層ごとの体験を重視したサービス展開 季節や路線によって、鉄道の利用者層は異なる。例えば、若年層のグループ、カップル、家族連れ、シニア層など、それぞれの特性に合った体験を提供する必要がある。具体的には、 ・若年層:SNS映えするフォトスポット ・家族連れ:子ども向けのプログラム など、ターゲットに合わせたサービスが効果的だ。しかし、鉄道事業者の多くは、利用者エクスペリエンス(UX)の重要性に十分に気づいていない。 UXとは、サービスを利用したときに利用者が感じる体験全体のことだ。使いやすさだけでなく、その過程での感情や印象、満足度も含まれる。UXは、利用者がサービスを利用することで得られる体験をよいものにし、ウェルビーイングを高めることが求められている。ウェルビーイングとは身体的、精神的、社会的な健康や幸福の状態を指す。単に病気がないことだけでなく、生活全体の質や満足度を含む広い概念だ。ターゲット層を明確にし、彼らのウェルビーイングを高めるサービスを柔軟に考えることが大切だ。 ●利用者の声を反映させた改善とマーケティング活動 SNSやアンケートを通じて利用者の意見を集め、それをもとにサービスやコンテンツを柔軟に改善することが必要だ。筆者が鉄道事業者に、マーケティング調査を継続的に行うべきだと指摘したところ、次のような理由でその重要性が“後回しにされがち”だと話していた。 ・人手が不足している ・専門人材の雇用が難しい また、地域の産学官との連携で、マーケティングや社会調査に強い人材を探す努力も足りていない場合が多い。鉄道事業者と観光列車を運行する人材との連携が薄いことも、予想以上に多い現状だ。 ※ ※ ※ 観光列車は単なる移動手段ではなく、 「地域文化を体験する場」 であるべきだ。利用者がまた乗りたいと思えるような仕掛けが必要である。しかし、特別な車両を使うという固定観念が、柔軟なコンテンツの企画やサービス提供の妨げになっているように感じる。 地域文化の体験価値を高めることが求められており、前述したように 「従来の車両 + コンテンツ」 での取り組みも十分に試す価値がある。なぜかそれを試す鉄道事業者がほとんどいないのは、非常に残念だ。