マンネリ化し始めた「観光列車」 似たようなデザイン&サービスで本当にいいのか? 現代人を魅了するための「三つの逆転策」を考える
筆者への反対意見
こうした筆者の意見に対して、次のような反対意見も考えられる。 ・動的で柔軟なサービス更新にはコストがかかる ・利用者が求める非日常感にどう答えるか ・地域との連携が地域側に負担をかける可能性がある これらについても詳しく説明する。 ●動的で柔軟なサービス更新にはコストがかかる 季節ごとに内容を更新するためには、追加の資金や人員が必要になる。そのため、中小規模の鉄道事業者にとっては、現実的ではない場合もある。また、地域との連携にも限界があるとの指摘があり、マーケティングの専門的人材を探すためのコストも問題となっている。 ●利用者が求める非日常感にどう答えるか 特別感や非日常感を重視する利用者も少なからず存在しており、リピーターを意識せず、1回限りの訪問者を増やすマーケティング戦略が有効だと考える人も多い。具体的には、特別車両を客引きのために使えばよいという意見だ。固定されたコンセプトやデザインの方が魅力的で、目立つことで広報効果も高まるという考え方も根強い。そして、沿線地域も目立つ車両に期待している。 ●地域との連携が地域側に負担をかける可能性がある 地域の農産物や特産品を活用する試みは魅力的だが、供給体制や人手不足などの問題から、地域側に負担がかかるリスクがある。持続可能性について不安を感じる声も多く、人口減少や人手不足の観点からも懸念されている。 以上のような意見もあり、動的で柔軟なサービス展開や多様性の追求が必ずしも正解とは限らない。
柔軟対策で観光列車を進化
筆者の意見と反対意見を整理すると、観光列車が飽きられないためには、「固定要素」と「変動要素」をうまくバランスを取ることが重要だと考えられる。 ・固定要素:一定のテーマやデザインを維持することで、利用者や沿線地域に安心感を与える。これにより、変動要素を減らし、過剰なコスト負担を抑えることができる。 ・変動要素:季節限定の食事メニューやイベントを、規模を大きくしすぎず、過剰に行わないことで、リピーターが飽きないようにし、獲得していく。 地域との連携については、地域に過剰な負担をかけないシステムを作ることが求められる。例えば、 ・地域の青果物の生産者と連携した短期イベント ・地域資源を活用した低コスト施策 が現実的だ。また、SNSを活用して利用者の声を柔軟に反映させたり、ターゲット層に特化したりした広告戦略を取ることも重要である。 観光列車の車両はリニューアルされることが多く、意外にも老朽化が早い。コスト面を考えると、既存の車両を観光用途にも使えるように兼用車両として活用することで、柔軟な対策が可能になる。また、前述のプロジェクション技術を使って車両の雰囲気を変える方法もある。柔軟性や可変性は情報技術で実現できる。 運賃が安い観光列車を求める声も多いため、既存の車両を活用した戦略を試してみる価値がある。その結果を見て、観光列車をより良くするために収束させることも戦略として重要である。 観光列車は地域や利用者とともに成長するべき存在であり、特別感を保ちながらも柔軟性や持続可能性を備えた運営が成功の鍵となるだろう。
高山麻里(鉄道政策リサーチャー)