ストレスや運動不足が引き金に。過敏性腸症候群(IBS)の原因をタイプ別に探る
不安によるストレスから腹痛や下痢を起こす「ストレス型」
ここから先は、各タイプについて詳しく解説していきます。まずは「ストレス型」です。 ストレス型は、下痢型の約50%、便秘型の約20%を占めます(久里浜医療センター受診患者データ)。IBSというと、「ストレスの病気、メンタルの病気」と思われるのは、このタイプが多いためです。 患者さんは、どのような状況のときに下痢や便秘が起こるかを自覚しています。たとえば以下のようなケースが挙げられます。 【自覚症状】 ・会議で緊張すると腹痛と強い便意が起こるので、急いで会議室から出ていく ・電車に乗ると必ず下痢と腹痛が起こる。立っているときはとくにつらい ・忙しいときほど便秘になるようだ。トイレに行く回数が減り、腹痛が起きてかたい便になる こうした症状が起こるのは、「ある場面」で便意を催したのに、なんらかの理由でトイレに行けなかったということがきっかけになります。その「ある場面」が「トイレに間に合わない」とくっついて、これまでなんともなかった「ある場面」が強いストレスとなり、腹痛と下痢を起こすようになる。この「悪循環」で、徐々に悪化していきます。 【悪循環】 ★トイレに間に合わずに下痢・失禁しそうになった経験 ↓ それが強い経験となって「トラウマ」形成 ↓ その「ある場面」で、より強く緊張するようになる ↓ 腹痛や下痢・失禁を起こす。登校・出勤できなくなるなど悪化も ↓ 電車内、試験中、会議中などの「ある場面」で便意を感じたが、なんらかの理由でトイレに行けず緊張 ↓ ★へ(このサイクルのくり返し) このタイプの人はストレスに反応するので、「悩めば悩むほど悪くなる」という悪循環が問題となります。腹痛を伴う便秘の人では学校・職場・家庭での時間に受ける強いストレスで腹痛と便秘を起こします。さらにその腹痛が不安を引き起こして、ストレスが増強されていきます。
腸の形に問題がある体質と運動不足が原因の「腸管形態型」
腸管形態型は、下痢型の約15%、便秘型の約80%、混合型のほとんどを占めます(久里浜医療センター受診者データ)。腸の形に問題がある人が運動不足になると発症します。まず、腸の形に問題があるとは、どういうことなのでしょうか? 教科書や図鑑には四角い形の腸が描かれています。大腸の形が教科書どおりであれば、多少便がかたくても、運動不足があっても、スムーズに排便できます。 ところが、日本人にはこのような四角い腸を持っている人は全体の2割ほどしかおらず、「ねじれ腸」が大多数を占めます。大腸が背中に固定されていないため立ち上がると骨盤内に全部落ち込む「落下腸」は、日本人女性の約2割、男性の約1割程度いるようです。落下すると腸は折れ曲がります。問題になるのは、下行結腸以降の大腸後半で起こった場合です。 大腸後半は便が固形になるところなので、ねじれに便が引っかかり便秘になります。大腸は便が引っかかって出せないと「腸閉塞を回避すべく」強く動いて便を排出しようとします。これが腹痛の原因です。 それでも便を十分に出せなかったとき、大腸は次の手をくり出します。それが「逆説的下痢」で、大腸から水分を出して便をゆるくし、下痢便で流し出す現象です。便秘と下痢をくり返す人のほとんどが腸管形態型で、悪化すると下痢症状が主体となることもあります。 このように、大腸の形に問題がある体質のうえ、運動不足が加わると、排便が困難になります。発症すると、体を休めるためにさらに運動不足になってしまい、症状を悪化させるという悪循環に陥ります。 腸の形と運動不足が原因なので、ほとんどの人が症状のきっかけとなるストレスは自覚していません。IBSでは医師から「ストレスですね」と説明されることが多いですが、この人たちが納得できないのはそのためでしょう。 さらに2タイプについては次回の記事でお伝えします。 〈パンと牛乳、ヨーグルト。朝食後に腹痛と下痢が起こる人は「過敏性腸症候群(IBS)」の可能性大〉へ続く
水上 健(国立病院機構久里浜医療センター内視鏡部長・慶應義塾大学客員講師(IBS便秘外来))