マイクロソフト・グーグル・アマゾンが「原発」に投資しまくる事情
グーグル、マイクロソフト、アマゾンで異なる活用法
では、今後の日本の原子力発電はどのように進むべきだろうか。冒頭に述べたグーグル、マイクロソフト、アマゾンは、それぞれやや異なるアプローチで原子力を活用しようとしている。 まず、グーグルは、AIの利用拡大に伴う電力需要を満たすため、小型モジュール式原子炉(SMR)からエネルギーを購入する世界初の契約を結んだ。 カリフォルニア州のカイロス・パワー社に、6~7基のSMRを発注し、最初の原子炉は2030年までに、残りは2035年までに完成する予定だ。 SMRは新しい技術で、まだほとんどテストされていないが、従来の大規模な原子力発電所とは異なり、コンパクトで必要なインフラが少なく、運転や安全管理がしやすいとされている。 たとえば、一部のSMRは、大型原子炉に比べて発熱量が非常に少ないため、2011年の福島原発や1986年のチェルノブイリ原発のような事故を引き起こした機械的故障の影響を受けにくい「受動的」冷却システムを利用できる(米メディアVOA、10月15日) グーグルの取引で注目されるのは、従来の原子力発電所ではなく、次世代型原子炉に焦点を当てている点だ。SMRのサイズは従来の原子炉の約1/10から1/4であり、その小型化とモジュール設計によって、より安価で建設や立地が容易になると考えられている(米メディアTheVerge、10月15日) ここで頻出する「モジュール式」とは、システムや装置全体を、あらかじめ決められた規格に基づいて製造された「モジュール(部品)」を組み合わせて構築する方式を指す。 各モジュールは独立して機能でき、必要に応じて追加や交換が容易であるため、建設や導入が効率的かつ迅速になり、コスト削減にもつながるメリットがある。
マイクロソフトは「事故が起きた」島で原発再稼働
一方、マイクロソフトは、米国のエネルギー企業であるコンステレーション社と契約し、ペンシルベニア州のスリーマイル島にある停止中の原子力発電所を再稼働させる計画を発表した(発表したのはコンステレーション社)。 コンステレーション社は、同州ミドルタウン近くのスリーマイル島1号炉を2028年に再稼働させる予定で、マイクロソフトは今後20年間にわたって、ここから得た電力で自社のデータセンターを運営するという。 スリーマイル島はご存じのように、1979年3月に米国で最も深刻な原子力事故が発生した場所である。この事故では、冷却用の水が故障したバルブから漏れ出し、2号機が過熱して大規模な放射能漏れが起こった。事故から45年が経過しているが、これは日本で福島の原発を再稼働させるような大胆な決断といえるだろう。 このように、グーグルが小型モジュール式原子炉(SMR)への投資を発表し、マイクロソフトが原発再稼働を進める中、アマゾンはタレン・エナジー社のペンシルベニア州にある原子力施設の隣にデータセンターを共同設置する契約を締結している。 SMRの技術開発にはまだ課題が残っており、原発再稼働の初雑な手続きを必要としないこの「お手軽」で「現実的」な方法論は、投資家から称賛を受けていた。 しかしアマゾンは、お手軽な発電方法だけでは電力が不足すると判断したようだ。10月16日に新たにSMRへの5億ドル(約750億円)超の投資を発表した。 ただ、SMRは小型とはいえ、稼働までに時間がかかる。最も早いオハイオ州とペンシルベニア州のSMRでさえ、運転開始は2029年とされる。こうした中でも「2030 年代初頭から始まる太平洋岸北西部の予測されるエネルギー需要を満たすのに役立つ」(アマゾン発表)と指摘するように、これからを見据えて投資に動く大手ハイテク企業の動きを見れば、日本が進むべき方向も自然と見えてくるだろう。
生活と安全を支えるエネルギーとは何か
2011年3月の福島第一原子力発電所の事故を受け、2012年に電力の全面自由化が始まって以降、電力需要の不透明さから電源への投資予見性が低下し、新規電源開発への投資が進みにくい状況が続いている。 これを受けて今年度から新たに、電力の「供給能力」に対して報酬を与える制度が導入されたが、この方法であっても発電所建設にかかる建設費や金利の上昇に伴う追加コストの回収が難しく、依然として新設が進まない可能性は高い。 我が国の産業と国民の生活を支えるために、安定的かつクリーンで競争力のあるエネルギーは何か、日本に残された選択肢は多くないが、国全体で真剣に議論を行うべきだろう。
執筆:ITOMOS研究所所長 小倉 健一