『侍タイムスリッパ―』で殺陣師の役を好演した「斬られ役歴60年」の峰蘭太郎さんの心にひっかかった「大御所俳優の言葉」
芝居の中身が重要
殺陣の世界で中堅以上になった当時の峰さんだったが、この高橋英樹さんの言葉がひっかかっていたという。そんなある日、1日中殺陣の撮影をしていて悩んでしまったことがある。「なんか上手くできへん」という思いが離れず、撮影が終わった後も全くスッキリしなかったという。ところがその日の殺陣師からは「今日はとても良かった」と褒められた。そこで高橋英樹さんの言う「福ちゃんを斬ると気持ちええわあ」の意味がわかった気がしたという。 峰:改めて考えてみて、やっと「そう言うことかあ」ってね。福本さんって、「気持ちよく斬られよう」とか考えてないんですよ。そう言うことじゃない。結局、福本さんって努力してはるから。努力しているのを英樹さんも存じていて、その努力して磨き上げた殺陣で斬りかかってくるから、斬るのが気持ちいいんです。(主役も)なんとなく斬ってるんじゃなくて、(福本さんが主役を本気で)斬ってやろうって思ってかかるから、気持ちいい。 ――殺陣は気持ちが大事ということでしょうか。 峰:「殺陣は芝居やで」ってね。お芝居で斬りかかっていくんやけども、その中身はなんですかっていう話です。 ――斬られ役として、その背景や設定を考えて役作りをされている? 峰:自分たちで(設定を)考えます。例えば家臣であれば「本当は斬りたくないんだけど、主人が斬れというから仕方なく斬る」「嫌だと言って斬らなかったら切腹が待っている」「んん…どっち(斬る仕草)、どっち(逃げる仕草)、ああもういけー!(斬りかかる)」っていう。そういうのを自分たちで作り込む。監督からの指示があることもありますが、そういう時も指示の上でプラス何を表現していくか考える。常に考えていく努力をします。ヤクザだったらどうするか、御家人だったらどうするか。やっぱりね、僕は斬られ役が好きだから。どうやって斬られるかを考えて自分を駆り立てていくのが好きだからやってきました。 ――時代劇の全盛期、芸能界は今より厳しかったといいます。 峰:あの時代の先輩や監督の良さってのがあると思います。「アホ・ボケ・カス!」って言ってた監督が、「おい、こっち来い!」って呼んでくれて、「ここで(殺陣を)せえ」って言ってくれはるんです。それで現場から戻ると「今回のはちゃんと役(キャスト扱い)になってるからな」って事務所から言われてね。見てくれてはるってことです。それに気がついたのは、福本さんの言葉で「いつかどこかで誰かが見てくれてる(*注釈あり)」。いつでもちゃんと努力しとけよってことですね…。 *『どこかで誰かが見ていてくれる 日本一の斬られ役・福本清三 』 (小田豊二共著/集英社文庫) のなかで福本清三さんが語っている言葉。 「侍タイムスリッパー」でも撮影所所長の台詞として印象的に引用された。 『侍タイムスリッパー』ヒロイン・沙倉ゆうのさんとの対談はこちら:<映画の撮影なのに「人数少なくない?」…『侍タイムスリッパー』ヒロイン役・沙倉ゆうのさん、殺陣師役・峰蘭太郎さんが語る舞台裏> 峰 蘭太郎 1964年16歳で故・大川橋蔵に弟子入り、TV俳優デビュー。 東映京都撮影所・専属演技者となって「斬られ役」として活躍する傍ら《殺陣技術集団・東映剣会》の役員・会長を歴任。近年の出演作は映画「せかいのおきく」「多十郎殉愛記」「太秦ライムライト」他。所作指導としての参加も多い。『侍タイムスリッパー』では殺陣師役を好演。 写真撮影 / 田中厚志(株式会社ズコーデザイン) 取材・執筆 / 近視のサエ子
近視のサエ子(音楽家・映像作家・ビジュアル表現者)