『侍タイムスリッパ―』で殺陣師の役を好演した「斬られ役歴60年」の峰蘭太郎さんの心にひっかかった「大御所俳優の言葉」
山と北の違いとは
――山と北は具体的にどう違うのでしょう? 峰:北の市川右太衛門さんの殺陣っていうのは華麗でスピード感がある、流れるような感じ。僕がいる山の方は重厚感。「北の御大」はチャッチャッチャ(スピード感のある動きをして)バスッ!と斬るのに対して、「山の御大」は1回バスッ(低い声)で斬る。派閥じゃないって言ったのは、自然とどちらかの撮影予定に(個々の特性によって)組み込まれていくんです。だからどちらへも行ったり来たりはできない。 峰:僕は『桃太郎侍』が好きで、すごく勉強して、高橋英樹さんの舞台へお声がかかり行くようになった。そしたら自然と他の主役の舞台は別のメンバーが行くようになっていった。自分はそのうち「高橋劇団」って言われるぐらい英樹さんとの接点ができてね。英樹さんは重厚感と流れるような殺陣を両方兼ね備えてらっしゃる。 ――高橋英樹さんといえば、私は子ども時代に『遠山の金さん』が大好きで、部屋にポスターを貼っていました。こんなことを言っていいかわからないですが、人間味のある殺陣といいますか。 峰:そうやね。(高橋英樹さんは)涼しい顔をして斬らない。その(高橋英樹さんの)雰囲気に負けないように、こっち(斬られ役)もお芝居をやる。 ――例えばチャンバラでジリジリ後ろに下がる動きがある。あのジリジリ動いているところから殺陣師さんがフリを決めているのでしょうか? 峰:全員で囲んで細かく動くのを「つけまわし」というんですけど、言葉で言うと「ジリジリして」って言いますね。「間合い」って言ってね、(見合ってどのタイミングで動くか計るまでの)お芝居のこと。あれは個々の判断でやるんです。殺陣師さんが手をつけた空間とつけられていない空間があって、手がつけられてない空間を斬られ役のみんなで埋めに行く。ある種のチームプレイみたいなもんですね。ラグビーやサッカーだと思ってもらえたら近いです。
斬られっぷりを見せたい
――ボールがない空間でもディフェンスをしているみたいな感じですか? 峰:そうそう。例えば庭で立ち回りをしてると、その中心を殺陣師さんが作る。その周りはみんな適当なところでちゃんと自分で考えて。どこまで写ってるかカメラマンに聞いてね。で、2.3人は(庭を離れて)廊下に上がる。そうすると厚みが出るんです。 ――カメラから見切れているか見切れていないかのところも、しっかり動いているということでしょうか。 峰:動いてます。特にモニターがない時代にはね。そのなかで1番怖い役目が、主役がかっこよくパーンと決めた時に、主役を隠さないように自分の姿(映るか写らないかギリギリのライン)と刀だけを(画面に)写り込ませる役目なんです。主役に「これから斬ってかかるぞ」という演技を画面の隅に入れる。ちょっとでも入り過ぎると主役が隠れちゃう。そこで主役にかぶったら監督から怒られる(笑)。「お前を撮ってるんちゃうわ! 主役撮ってんねん! アホ!」って(笑)。そうやってね、引き画の付け回し、寄りの付け回しから、後ろ姿でも演技をできるように僕らは勉強するんです。 ――よく「時代劇で斬られた人は、カメラに写ってないところで立ち上がってもう1度斬られ役でチャンバラに参加してる」って噂を聞いたんですが… 峰:そんなこともありますね(笑)。まだ新人の頃は殺陣師さんに「(カメラの方を)向くな!」って言われてた。顔がバレるじゃないですか。そうするともう使い道がないんですよ。「顔は見せるな!」って言われてね、先輩たちは上手に顔を隠して死んでいく。上手に顔を隠して死ねると、1日に何回もかかる(出番がある)んです(笑)。顔が見えちゃうと「もうええわ、外れとけ」って言われる。 ――三谷幸喜監督の『ザ・マジックアワー』で佐藤浩一さんが演じる主人公が斬られ役をしていて、目立ちたいからすごく派手な死に方をするシーンがあるんです。カメラ目線で死んでいくんですけど、実際にそういう「俺を見ろ!」という気持ちはありますか? 峰:目立ちたいですよ。僕なんか特にとんがった人間でしたからね。目立ちたくて目立ちたくて(笑)。順番に撮っているわけじゃないけれど、最後のカットっていうのはわかるから。それまでの(撮影)カットでちゃんと顔を隠しておけば、最後のカットは顔が写ってもいいわけです。だから最後のカットに選ばれた時はね…(笑)。いつでもできる(顔を出して目立っていい)わけじゃないです。条件があるんですけど。「これならいける!」というカットに斬られ役で選ばれた時はね、「いただき!」って思うわけです(笑)。俺の斬られっぷりを見せようってね。やっぱり思いますよ(笑)。