寝ない人は短命!? アリの生態には「働き方を見なおして幸せになるヒント」がつまっていた
24時間働くハキリアリ
睡眠をとる時刻やリズムはというと、種によって大きく異なる。 日本でもっともよく見られるアリの一つ、クロヤマアリは日中働き、夜6~7時間ほど眠る。 ハキリアリは基本的に24時間働いていて15分おきに2~3分ほど寝るだけだ。ただし、地域によっては夜の活性が落ちるという報告もある。 超ハードワーカーのハキリアリと対照的なのがカドフシアリだ。 カドフシアリは珍しい種ではないけれど、基本、森の中に生息するため、一般に目にする機会は少ない。黒くつややかで丸っとしていて、とてもキュートだ。このカドフシアリ、なんと1日のうちほとんどの時間は動かない。
ハキリアリはキノコを育てる
社会の複雑さも睡眠時間(労働時間)と関係していて、ハキリアリはアリ全体の中でもっとも大きく複雑な社会を作る。 葉っぱをちぎって巣に運び、そこからさらに小さくちぎって発酵させ、キノコを育てる。収穫したキノコを女王アリや幼虫に給餌(きゅうじ)。 キノコを育てる農作業だけでなく、コロニーの維持のための労働すべてが分業されている。徹底した役割分担によりコロニーは大きなもので数百万個体となる。 一方、カドフシアリはというとそのコロニーは小さく、50個体程度だ。
寝ないで働くアリは短命
さらに興味深いのは、睡眠時間と寿命の関係だ。クロヤマアリの寿命が2~3年に対し、ハキリアリの寿命はたったの3か月! そして、1日の大半を寝ているカドフシアリは5~6年も生きる(飼育下だと7年生きた個体もいる)。 同じハキリアリのグループでも起源に近い、社会が小さい種は労働時間が短く、寿命は5年ほどだ。長く寝るほど寿命は長い。 言い換えれば、睡眠時間が短い=労働時間が長いほどアリは短命となる。「働きすぎ」「寝ないで動く」のは、体にストレスを与え、寿命に直結すると考えられる。 睡眠時間と寿命の関係はヒトでも明らかになっている。アメリカで約17万人もの健康データを用いて調査したところ、よい睡眠習慣を持つ人は死亡率が30%下がることが判明。 また、日本の自治医大が日本人男性を対象に行った研究では、睡眠時間が6時間以下の人は、7~8時間の人に比べ、死亡率が2.4倍高くなるといった報告もされている。 経済協力開発機構(OECD)の調査によると、日本人の平均睡眠時間は7時間22分で、先進国33か国の中でもっとも短いそうだ。 日本人……生き急いでいるのかもしれない。今は長寿国として知られているが、いつの間にか短命な国になってしまう日も近いのかもしれない。