齋藤学「10」は空き番の横浜F・マリノス。電撃移籍は背信行為だったのか?
愛媛FCへ期限付き移籍して武者修行した2011シーズンを除き、8歳からマリノスひと筋でプレーしてきた齋藤は、マリノスの公式ホームページに「恩を仇で返してしまうことになってしまいました」と声援や手紙、千羽鶴などで勇気を届けてくれたファンやサポーターへの思いを掲載している。 「僕はこの移籍を挑戦と捉えてます。より難しいところにチャレンジしたいという想いが、今まで育ててもらったクラブでもない、キャプテンでもない、また一から自分を作っていきたいという想いが、F・マリノスを離れるという決断を後押ししました」 単年契約が結ばれた背景には、齋藤の強い海外志向をマリノス側が汲んだとされている。移籍金が発生しないほうが海を渡りやすいのは事実だが、齋藤への「情」を優先させた結果として、何も得られなかったといっても決して過言ではない。 その意味ではマリノス側は、プロフェッショナルの仕事に徹しきれなかった。ヨーロッパへ移籍しやすい状況を求めて単年契約を要望したとすれば、齋藤および実際にマリノス側と交渉にあたる代理人にも、いわゆるモラルが欠落していたと言わざるをえない。 選手を主力に育て上げた矢先に、契約満了に伴い無償で手放す――ここ数年間にわたって繰り返される日本サッカー界の悪しき潮流に対して、あるJクラブ関係者はこう警鐘を鳴らす。 「特に主力とされる選手は最低でも2年契約を結んで、1年分の移籍金を残してチームを出るかたちがノーマルにならないと、日本サッカー界は停滞する。選手の気持ちもわかるけれども、社会人としてどちらが正しい判断なのか。代理人側からの働きかけと世の中の常識との差を、クラブとして選手にしっかり伝えていくことがすごく大事になってくる」 たとえば、ブンデスリーガのヘルタ・ベルリンで出場機会が激減している日本代表FW原口元気。今シーズン限りで切れる契約の延長をクラブ側から打診されながら、これを拒否して2018‐19シーズンから移籍する道を探ったことで一気に信用を失った。 それだけ「ゼロ円移籍」は、クラブに対する背信行為と映る。