耳で楽しむ平成レトロ。この夏は「スケルトン完全ワイヤレス」がトレンドかも
1998年発売のiMac G3が火付け役とされる、90年代後半から00年代前半にかけて巻き起こった「スケルトン」ブーム。あらゆる製品のスケルトンモデルが登場していたことを、当時を生きた人なら誰もが印象に残っているはずだ。同時に、もはやそれが「平成レトロ」という括りになっていることに若干の恐怖を覚えるが……。 【写真】各モデルの本体写真やスマホアプリのUI そんなスケルトンブームが、ここ最近でリバイバルの兆しを見せている。スマートフォンアクセサリやワイヤレスオーディオなど、令和ならではのスケルトンな製品が続々と登場しているのだ。そんなわけで、今回は「クリア」でも「トランスルーセント」でもなく、あえて「スケルトン」と呼びたい新製品の中から、注目の完全ワイヤレスイヤホンをいくつかご紹介していこう。 ■鮮烈な赤とコンパクトなサイズが印象的! Beats「Beats Buds Solo」 まずは、ファッショナブルなアイテムとしても注目を集めるBeatsのTWS。Appleストアや量販店などでもApple製品と並んで置かれているので、オーディオに関心が少ない方も目にする機会が多いのではないだろうか。 今回紹介する「Solo Buds」は、公式サイト曰く「これまでで最も小さなケース」という、非常に小さな充電ケースが特徴だ。今回紹介する製品の中でも一番小さく、握った手の中にすっぽり収まってしまいそうなほど。そんなSolo Budsのスケルトンモデルは、Beatsらしい鮮明な赤が印象的。イヤホン本体はスケルトンではなくマットな赤となっており、ケースとのコントラストもオシャレだ。 イヤホン本体は曲線的な形状で、耳の小さな人でも収まりやすそう。押しボタンであるフェイスプレート部は少し伸びたような形状なので指でつまみやすい。小さなケースから取り出す際も扱いやすいだろう。 iPhoneとペアリングしてみると、やはりApple傘下ならではのOSレベルの親和性の高さが嬉しい。充電ケースのフタを開くだけで認識してくれたり、アイコン表示も専用のものが用意されていたりとわかりやすい。イヤホンのセッティングもiPhoneの設定アプリから行うことができる。単純に使い勝手が良いし、ガジェットの取り扱いに慣れていない人でも安心だ。また、こうしたiOSならではの恩恵は無いものの、もちろんAndroidでも通常のイヤホンと同様に使うことができる。 音質傾向としてはやはり低域が持ち上がっていて迫力を感じるものの、ある程度バランス良くまとまっている。Ado「唱」などの力強いサウンドと相性が良く、ボーカルもまた低域が立っていて厚みを感じる。「低音は欲しいけど、極端にパワフルなのはイヤだな」と思う人にもちょうどいい仕上がりだ。それこそ、ブランド初期のブーミーなイメージを持っている人は、その変化に驚くかもしれない。 ■令和と平成が交差する原色イエロー。Nothing「Ear(a)」 当時のスケルトンブームにAppleの存在が欠かせないとするなら、この令和のリバイバルブームにおいてはNothingの存在は欠かせないだろう。スマートフォンやイヤホンなど、スケルトンが印象的な製品を多く発売し、新興ブランドながらその存在感を示してみせた。そんなNothingイヤホンの最新モデルが「Ear(a)」だ。 手にとってまず、外箱の紙の質感に驚いた。光沢があってちょっとチープ。この感じ、かなり「90年代後半」って感じだ!「ゲームボーイカラー」の外箱とか、まさにこういう手触りだった気がする。カパッとあけて、ワクワクしながら中の機械を取り出す感じ。ドンピシャに感じる世代の人も多いのではないだろうか。 そしてイヤホンケースもこれまた、ものすごく懐かしさを感じる。「あの時代」のプロダクトデザイン感マシマシだ。今回はイエローをお借りしたが、この鮮やかな原色感も平成初期っぽい。それでいてケースにペアリングボタンが付いていたりと、今風の使い勝手も良好だ。 イヤホン本体はいわゆるスティックタイプで、指でつまんで着脱するのもラクラク。耳に入る部分はつるんと丸みを帯びていて収まりやすく、外側に見える部分がほぼ丸ごとスケルトンになっているのもいかにもで嬉しい。 音質はほどよくメリハリがきいており、聴きやすさと楽しさが良いバランス。DIALOGUE+「ユートピア学概論」など、ハイテンポで賑やかな楽曲も楽しく聞かせてくれる。LDACにも対応しており、対応機種でより高音質な再生も楽しめる。 専用アプリからイコライザーでの音質調整も行えるが、注目したいのが「ベースエンハンス」機能。ただ低域が持ち上がるだけでなく、「ズンズンくる」感じの低域に質が変わる、というイメージだ。デフォルトのライトめな聴き味とはかなり印象が変わって面白い。 また、アクティブノイズキャンセリング(ANC)の効き具合もなかなかのもの。弱~強の3段階に加えて、周囲に合わせて適切に切り替えてくれる「アダプティブ」も設定可能で、移動中や色んな場所で使う人には嬉しい機能だ。外音取り込みも自然で聞きやすい。機能性もしっかり備えた1台だ。 オーディオテクニカ、JBLからも魅力的なモデルが登場! ■実はスケルトンの老舗? オーディオテクニカ「ATH-CKS30TW+」 オーディオテクニカといえば、スケルトンよりもウッドや金属のハウジングを使った製品が多いイメージかもしれない。しかし、過去にはiMac G3にカラバリを合わせたスケルトンデザインのヘッドホンを発売していたりと、時代に合わせた柔軟なスタイルを持っている。今回のスケルトンモデルの発売もその証左といえよう。 そんな同社の低音ブランド「SOLID BASS」シリーズのTWSは、ややスモークがかったブラックのスケルトンがかっこいい。「クリアブラック」っぽさもあるような、今回紹介する中では一番今風のスケルトンだ。差し色としてはイエローが使われており、ケースのブランドロゴやイヤホンのLR表記など、細かいところでアクセントになっている。 イヤホン本体はSolo Buds同様に曲線的なデザインで、耳にスッと馴染む。側面には指をひっかけやすい凹凸もあって取り回しが良好だ。 音質はやはりSOLID BASSらしく、アタック感が心地よい低音重視のチューニング。あとに引くようなモッタリ感は無く、弾むようにスピーディでキレのある低音だ。低域の量感とエッジの立った中高域のバランスがちょうどよく、こもった感じがかなり抑えられている。星街すいせい「ビビデバ」のような複雑なリズムも気持ちよく、ボーカルも近くて聴き応えがある。 これだけでなく、専用アプリのイコライザーもかなりのこだわりだ。カスタム機能は無く、用意された5種類から選ぶ形だが、これが凄まじい。「Bass Boost - Deep」、「Bass Boost - Beat」、「Dynamic」と、低域重視のイコライザーが5つ中の3つも占めている。それぞれの効きも良く、「ひとくちに低音が強いって言っても色々あるよね~」という「色々」を全部体感できそうなバリエーション。SOLID BASSシリーズで低音を突き詰めてきたノウハウは伊達じゃないようだ。 ANCもなかなか強力で、それでいてキツさはあまり感じない。ヒアスルー(外音取り込み)はやや再生感があるが、小さな音も拾いやすい。低遅延モードや、自分の声をイヤホンに戻して通話しやすくするサイドトーン機能、リラックス効果のあるサウンドを再生できるサウンドスケープ機能など、専用アプリの機能性の充実も印象的だった。 総じて、低音を得意とするシリーズならではの「手練れ感」を感じる仕上がりだ。数多くの製品ラインナップを揃えるオーディオテクニカだからこそ、こうした振り切ったモデルが出せるのだろう。低音好きにイチオシしたい1台だ。 ■基板が見えるド直球スタイル! JBL「Tune Beam Ghost Edition」 こちらも老舗スピーカーメーカーでありながら、タッチパネルを搭載するTWSなど、先鋭的な製品開発を欠かさないJBL。そんなJBLのスケルトンモデルは、「Ghost Edition」の名を冠するだけあって透明度が高く、まさに「スケルトン」って感じの直球のデザイン! ケースはしっかり中の基板が見えるほどで、好みが分かれるかもしれないが、スケルトン欲は間違いなく満たしてくれる一品だ。 また、ケースはやや大柄ながら全体的に丸みを帯びた形状で握りやすい。イヤホン本体もスティックタイプで扱いやすく、こちらもケース同様に透明度が高いものの、装着時に見えるスティックの外側はカラーが付いているので、ややさりげなく主張するスケルトンといった感じだ。 音質は低域を得意とするJBLらしく、ふくよかでややウォームな低域の柔らかな響きが心地よい。前3機種と比べると、グイグイ前に出てくる低音というよりは、下をどっしりと支えてくれているような存在感だ。ALI「Professionalism feat.般若」など、ジャジーでファンクなサウンドも表情感豊かに鳴らしてくれる。 ANCは軽く閉塞感を感じるレベルで結構強く、空調の「ゴー……」という音などは完全に聞こえなくなるレベル。アンビエントアウェア(外音取り込み)も自然で聞きやすい。また、声の取り込みに特化した「トークスルー」が別途用意されているのも便利だ。 専用アプリのUIも直感的でわかりやすく、こちらも通話時に自分の声を戻して話しやすくできるボイスアウェア機能や、再生時の音質と遅延をそれぞれ最適化できるスマートオーディオモードなど、使いやすい機能が揃っている印象だ。 ◇ いずれも実力あるブランドだけあって、当然ながら単なる便乗的な安っぽいアイテムでなく、それぞれのアプローチで作り込まれた完成度に舌を巻く。スケルトンブームの当時を知る人は懐かしさを、そうでない人は新鮮さを感じながら、スケルトンの先にある魅力を透かしてみてほしい。
工藤寛顕(だいせんせい)