女子レスリングで“姉妹金”と連覇達成の川井梨紗子はパリ五輪で“霊長類最強女子”吉田沙保里氏の3連覇に並ぶことができるのか?
「休むことに不安もあると思います。ケガを治療したといっても完全に元に戻るわけではないので、休むことをためらわせるのでしょう。ですが、しばらくマットから遠ざかることでかえって自分のレスリングをどのように組み立てるのかをじっくり考えることができるのでレスラーとしての幅を広げられるのです。実際現役時代の私がそうでした。現状のままでも技術的に彼女を超えてくる女子レスラーはすぐには現れないとは思いますが、より3連覇を確実にするために体を万全にすることを薦めたいのです。それができたならば、彼女の3連覇、そして力をつけてきた妹と一緒に姉妹連覇を実現することも夢ではないと思います」 そしてその先に川井にはさらなる夢がある。今回五輪代表の座を争った伊調が達成した五輪4連覇だ。コンディションさえ整えば五輪4連覇も夢物語ではなくなるのだろうか。 小林氏は苦笑交じりに「4連覇は未知の世界過ぎます。わかりません」と言葉を濁した。近代五輪の第1回大会から実施されてきたレスリング競技だが、その歴史の中で五輪4連覇という記録を打ち立てたのは、女子の伊調と、今大会で4連覇を達成したグレコローマン最重量級のキューバのロペスの2人だけだ。 川井自身、五輪金メダリストとなってからも勝ち続けることの独特の難しさを感じてきたのだろう。決勝後にテレビ局のレポーターとして取材にやってきた吉田沙保里氏の姿を見つけると「沙保里さんのすごさが、改めてわかりました」と言っていた。 世界選手権こそ連覇できたが、2018年のアジア大会に62kg級で出場し準決勝で負けたこと、同年末に復帰した伊調馨に競り負け、東京五輪を目指すことを諦めかけたことなど色々なことが思い出され、世界連覇の記録をつくった吉田氏を前に素直な驚嘆の気持ちがわき上がったのかもしれない。 日本が世界を牽引する状況はまだ続いているが、女子レスリングの世界は、今後、「ポテンシャルの高い選手が増えてきており、同じ選手が同じように勝ち続けるのは難しくなる」(小林氏)とみられている。そのなかで勝ち続けることのプレッシャーは他にはないものだろうが、五輪という場所は、それでもまたチャレンジしたくなり、一度でも参加するとまたもう一度、その舞台に立ちたくなる魅力に満ちているものらしい。 この日、金メダリストとなった川井は、「こんないい日があっていいのか。このために長い間、いろんな思いを抱えてがんばってきた。本当にいい日です。今日は」と心の底からそう言った。川井は3年後のパリ五輪は29歳。4連覇を狙う2028年ロサンゼルス五輪では33歳になる。伊調が4連覇を達成したときも32歳だった。