女子レスリングで“姉妹金”と連覇達成の川井梨紗子はパリ五輪で“霊長類最強女子”吉田沙保里氏の3連覇に並ぶことができるのか?
「準決勝までは右手で相手の小指側を取る内組み手だったのが、決勝では親指のほうに入る外組み手に変わっていました。こうすると相手は手首をきめて腕を取ること(ツーオンワン)がしづらくなります。今大会で日本人選手は全般的に、いったんツーオンワンになると守りに徹して動きが止まりがちだったのですが、この方法なら、そもそも腕を取られづらくなります」と小林氏。 クラチキナが得意とする技を封じるためにとった戦略は、分かりやすく対戦相手を圧倒するものではなかった。だが、上半身だけでなく、常に足が動いている川井のやり方は「レスリングの王道」だと小林氏は賞賛する。 「組み手のとき手を動かすので精一杯な人がほとんどですが、彼女はその間、まったく足が止まっていない。自分の構えを一回も崩さず上下左右に揺さぶり、フェイントをつかうなどして相手が崩れるのを待つ。下半身をしっかり鍛えてきたからこそ、とることができた戦略です。相手の得意技を封じるためにとったのだと思いますが、相手はいつのまにか負けてしまったと感じたのではないでしょうか」 危なげない王者の戦いだった。関係者の間からは「川相が世界のトップの座を誰かに奪われることは、当分はないのではないか」との声が聞こえてくる。 では、3年後のパリ五輪で川井は、吉田沙保里氏に並ぶ五輪3連覇を成し遂げることができるのか? 小林氏は、気がかりな点がひとつあるという。 「今大会の試合で何度もレフェリーから手首のサポーターをまき直すように指示されていました。3年後のパリ五輪での五輪3連覇を確実にするなら、きちんとケガの治療をしたほうがよいと思います」 以前から「ピリッと痛みが走るから」と手首にテーピングをして試合に臨んでいたが、今回はそれが度々ほどけ、何度も審判から確認するよう指示されていた。これほどまでに何度も審判から指摘を受けた姿は見たことがない。もし痛みが強くなって、このような状態になっているのであれば、試合出場より治療を優先させるべきというのが、小林氏の意見。