男性が育児退職してはいけないのか?フリーランス翻訳者という選択
宇宙に移住するのと同じくらい⁉
というわけで、ある晩、私が会社員を辞めてフリーランスになるという方向を妻に提案してみました。 「冗談じゃない」 言下に却下されました。 「いや、冗談じゃなくてまじめな話なんだけど……」なんてとても言えた雰囲気ではありません。あとから聞くと、「宇宙に移住しようというくらいありえない提案だと思った」とのこと。 さまざまな説得を1ヵ月くらいくり返すと、ようやく、「たしかに、フリーランスとして仕事がちゃんとできるなら、いろいろ解決するわね」まで到達しました。
退職金はすずめの涙
会社に退職を願い出たときのことは、いまでもよく覚えています。上司に伝えた翌日出社すると、人事担当者に呼び止められ、会議室へ。 「聞いたよ。きみ、そういうときは、ふつう、嫁さんが辞めるんじゃないんかね」 「はい、うち、ふつうじゃありませんから。子どもが小さいあいだの何年間か、残業のない暇な職場に飛ばしてもらえるという話があれば辞める必要はないのですが、そんな話はありませんよね?」 「ないな」 「ですよね。でも、子どもは生ものでほうっておけません。どうしても、急に休むとか、無理やり早く退勤するとか、そういうことが起きます。そんなこんなで、まずまちがいなく、あいつのせいで仕事が回らないなど部内に不満がたまって辞めざるをえなくなります。それくらいなら、いまのうちにきちんと引き継いで辞めたほうが、私にとっても、部にとってもいいと思うんです」 「……いま退職しても退職金はすずめの涙だぞ?」 「理由がゼニカネじゃないのでしかたありません」 役員からも「世の中はいま、失業者があふれている。なにもこんなときに辞めんでも」と言っていただきました。たしかに独立を目的に会社員をしてきたのなら「なにもこんなとき」でしょう。でも、子どもが生まれてうんぬんではしかたありません。そう返すと「仕事を続けたいなら子どもを作ったのがまちがいだったな」と言われてしまいました。 あのころの企業社会ではそれもまた真実という考え方ですし、そう考えるような人でなければグループ1万人の大企業で頂点近くまで昇り詰めることはできないでしょう。そういう意味で、一理あるコメントではあります。 妻は「我々世代が子どもを生まなかったら、あなたの年金、だれが払うの? と言えばよかったのに」と口をとがらせていましたが。