能登半島地震教訓に地震の長期評価を前倒し公表へ 政府の地震本部、防災対策への活用期待
地震発生確率は一つの目安
国が推進する地震の長期評価は、最新の科学的知見や技術により、作業の精度の向上が期待されているものの、基本的には「地震繰り返し論」に基づく。地震は同じ場所でほぼ定期的に繰り返し、過去に起きた地震はいずれ繰り返し起きるという考え方に基づいている。長期評価に際して「前回いつ地震があったか」を明らかにすることが極めて重要だが、その根拠、痕跡を見つけることは容易ではない。限界があることを忘れてはならない。 陸側、海側のプレートがせめぎ合う南海トラフでは過去大地震が繰り返し発生してきた。江戸時代の1707年には宝永地震が起き、さまざまな歴史資料からMは8.6の大地震だったと推定されている。日本海溝が震源と推定される大地震としては平安時代前期の869年に貞観地震が起き、東北沿岸が大津波に襲われた記録がある。 東日本大震災前の長期評価では宝永地震より前の大地震は想定していなかった。大震災前は貞観地震に関する評価が確定していなかった。このため、大震災直後から大津波で起きた東京電力福島第1原子力発電所事故など、さまざまな甚大被害について「想定外だった」との弁解を許した経緯と反省がある。 和歌山県串本町の橋杭岩近くの巨石から見つかり、約2千年前に巨大津波を伴う巨大地震の痕跡の可能性があるとする研究がある。古文書の記録や、津波が陸地に運んできた砂や石などの堆積物から過去の発生を解き明かすさまざまな研究が続けられている。このような地道な研究が国の長期評価の作業を支えている。 地域防災計画の基礎になる長期評価は重要だ。だが、あくまで大地震に対する「備え」の意味では「一つの目安」と捉える必要がある。M8~9級の南海トラフ巨大地震は「30年以内に70~80%の確率」とされているが、70や80を30で割って「1年以内に起きる確率」を考えるのは間違いで、30年後にも起きないかもしれないし、今日、明日起きるかもしれない。