自家製爆弾vs竹やり。牧師が率いる「手作りの内戦」に同行した 国際社会の支援はゼロ。「打倒軍政」を支えるのは市民の熱意【ミャンマー報告】2回続きの(1)
「国軍兵士も軍政と内戦の犠牲者だ」と司令官。少数民族側は計12人が死亡、70人が負傷した。最前線で戦ったタウンブー大尉(27)に死んだ部下への思いを尋ねると、長い沈黙の後に「悲しく寂しいが、誇らしい。私は軍政を倒すまで戦う」と語った。チン州では国軍の主要拠点が駆逐されつつある。同様の戦闘が全土で続く。 ▽牧師率いる「草の根部隊」は常に予算不足 取材班が同行したのは少数民族武装組織「チン防衛隊(CDF)」の一部隊。ザカイ司令官(34)は約120人の兵士を率い、人口約6千人のチン州北部シイン地域で戦闘と自治を担っている。本業はキリスト教の牧師。食事の前には祈りを欠かさない。兵士らは「司令官」ではなく、敬意を込めて「牧師」と呼ぶ。大半が10代後半から20代前半の兵士らは農民や運転手、学生など経歴が多様で、2021年2月のクーデター後に初めて銃を握った者がほとんどだ。 村の教会で働いていたザカイ司令官は、クーデターから約2カ月後の2021年3月末、軍政のデモ弾圧と市民殺りくを食い止めるために仲間11人で部隊を立ち上げた。「軍政を追い出し、自分たちの土地と国を取り戻す」ことが戦う目的だ。州内では同時期に、軍政に反発する市民が多数の組織を設立。今では計18のCDF部隊に整備された。チン州には数十年の歴史を持つ「チン民族戦線(CNF)」と配下の武装組織「チン民族軍(CNA)」というプロ集団が存在し指導的役割を果たしてきた。素人集団CDFはこれを補完し、戦闘と自治の両方で重要な役割を担っている。
活動資金は、地元から国外に避難した市民らの寄付が頼りだ。寄付は日本からも届くという。ザカイ司令官が2023年に受け取った寄付金総額は約2500万円相当。これで学校と病院を運営し、国軍との戦闘も続ける。タインゲンでの国軍陣地攻撃作戦だけで戦費が約1700万円かかった。 「資金は常に不足している。今もコメ代、燃料代、医薬品代など約130万円の借金が返せない」とザカイ司令官。配下の兵士ら120人には「この3年間一度も給料を払えていない」。食事と軍服や靴、自動小銃を与えるのが精いっぱいだ。 ▽軍政支配は国土の中央部のみ。少数民族が強い周縁部で戦闘が続く ここでミャンマーの現状を整理しよう。「中国とインドが出会う場所」と称されるミャンマーは、中国とタイ、インドなどに囲まれた多民族国家。最大民族ビルマ人を筆頭にシャン人、カレン人、ラカイン人など135民族が存在する。チン州だけでも多様な民族と言語がある。