開国時の日本人の美徳「清き明き直き心」=渡辺京二『逝きし世の面影』から学ぶ=サンパウロ在住 毛利律子
そう…、日本はこんなにいい国だったのだ
著者はいう。ある文化の特徴は、その文化に属する人間によっては意識されにくく、従って記録もされにくい。よって日本を訪れた外国人の記述を収集・分析することで、日本の持つ文化的特徴を掴むことができる。 江戸末期、日本を訪れた欧米人は、西洋文明こそが世界に優越すると確信していた。しかし、日本に上陸してすぐに、彼らの見識は根底から覆った。その結果、ほぼ全員が、当時の日本文明に讚嘆の言葉を惜しまなかった。そして、むしろ進んで西欧文明の批判・反省にまで言及することになったのであった。 それでは、彼らを痛く感動させた日本人はどのような文化的生活を営んでいたのか。感銘深い言葉や感想はあまりに膨大な数に上るので、14章で構成された各章から印象深い点をいくつか取り上げ、要約して紹介する。
陽気な人々 親切と純朴、信頼に満ちた民族。住民全ての丁重さと愛想の良さ、地球上最も礼儀正しい民族
概ね、人々は暮らしに満足しており、幸福である。安穏で静かで幸福な日常生活。互いが、大それた欲望を持たず、競争もせず、穏やかな感覚と慎しみ深い物質的満足感に満ちた生活を楽しんでいる。彼らを眺めていると、世の中に悲哀など存在しないように見える。 諸外国に比べ、あらゆる社会階級は平等である。皆、こざっぱりとして身なりもよく、幸福そうである。財産に多寡があっても、金持は高ぶらず、貧乏人は卑下しない。また、貧困な隣人同士の密集地域でも、ケンカ争いはなく、犯罪を誘発することもなく、いたるところが清潔である。 毎日がお祭り気分といった心意気で、隣人が和気あいあいとして、助け合って暮らしている。町の角角の路上演芸や、小さな芝居小屋などは、いつも繁盛して、観客と役者が一体となって楽しんでいる。 日本では時間はゆっくり流れている。人々は勤勉だが、働きたいときに働き、休みたいときに休んだ。「労働は苦役」とか「労働生産性」といった概念は無いようで、共同作業の際には声を合わせ、自分たちのペースで、楽しみながら取り組んでいる。また、江戸の火事が鎮火した後には、瞬時に家が建ち並ぶことは、驚異的であった。