フランスで“映画の多様性”が実現している理由 横浜フランス映画祭 2024が開幕
見どころは…「全部!」
―今回の目玉として特に推したい作品はありますか。 全部です(笑)。申し訳ないですが、本当なので。まずオープニング作品の『愛する時』。昨年カンヌ映画祭で上映されたメロドラマの傑作です。男女2人の困難に満ちた恋愛を、第2次大戦後から80年代までを背景に大河ドラマ的に描いています。従来の恋愛物を逸脱する展開に驚くでしょう。監督のカテル・キレヴェレは40代前半の女性で、これが長編4作目です。 同世代の女性監督があと2人います。マリー・アマシュケリ監督の『Àma Gloria』は少女が主人公の物語で、ジャック・ドワイヨンの名作『ポネット』に迫る感動作と言えるでしょう。これと対照的なのがヴァネッサ・フィロ監督の『コンセント/同意』。性暴力を描いた衝撃的なベストセラー小説の映画化で、主演のキム・イジュランは注目の新人です。 彼女たちよりさらに若い世代の監督がセバスチャン・ヴァニセック。巨大化した毒グモが増殖して街を襲う『Vermines』というジャンル映画です。イメージと違うかもしれませんが、フランスでは非常に斬新なホラー映画の若い作り手が何人も出てきています。今回、その流れを代表する作家を紹介できて、とても満足しています。加えてこの監督は、アメリカの大手エージェントと契約し、これからハリウッドでの活躍が期待されています。 ―これから有名になりそうな若手と、実績のあるおなじみの監督や俳優たちが顔を揃えるのが映画祭の魅力ですね。 作品について話すと止まらなくなってしまいますが、いいですか(笑)? ベルトラン・ボネロ監督、レア・セドゥ主演の『La Bête』(『けもの』=仮題)は、ヘンリー・ジェイムズの短編『ジャングルのけもの』(複数の訳あり)の映画化です。 マルタン・プロヴォ監督の『画家ボナール ピエールとマルト』は、画家ピエール・ボナールの伝記で、映画や舞台に引っ張りだこのカメレオン俳優、ヴァンサン・マケーニュが演じます。 フランスの現代社会の姿を見事に映し出すラジ・リ監督の新作『バティモン5』も忘れてはいけません。社会派映画の様式にのっとりながら、新しい形を生み出してもいる。緊迫感があって力強い。ラジ・リは役者の力を見事に引き出す監督です。