フランスで“映画の多様性”が実現している理由 横浜フランス映画祭 2024が開幕
―作品のジャンルも幅広いですね。 フランス映画の特長の1つは多様性にあります。さまざまなジャンルやストーリーを旅するように楽しんでもらえるところがこの映画祭の魅力でしょう。 日本のフランス映画好きには、バレエやオペラのファンが少なくないのですが、バレエ映画を新しい視点で描いたのが『Neneh Superstar』。名門パリ・オペラ座バレエ学校に入学した黒人の少女を追った物語です。アフリカ系ダンサーが史上初めて最高位のエトワールに昇格したのが去年ですから、絶好のタイミングです。 ドキュメンタリーも多様で層が厚く、フランスの得意分野です。今回は『アニマル』を選びました。環境活動家でもあるシリル・ディオンが監督で、環境保護に取り組む16歳の少年と少女が世界を旅する姿を追います。 すみません、つい調子に乗って全上映作品について話してしまいました(笑)。これだけバラエティがあるので、どんな観客にも喜んでもらえるでしょう。たった5日間でこんなにあるんです!
「観客が支える」フランス映画のシステム
―多様性についてお話がありましたが、その点で日本映画はまだまだという印象です。 私はそれについて語る立場にありませんが、ユニフランスでの仕事を通じて、日本の配給会社の人々と会う機会があります。特に独立系の会社が配給している作品では、若い監督やプロデューサーたちが、社会に新しい声を響かせようと頑張っているのを感じます。 例えば、カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門でカメラドール(新人監督賞)の特別表彰を受けた早川千絵監督の『PLAN 75』などがそうですね。 ―でもフランスに比べると、若い世代が発表の場や資金の援助を得にくい気がします。 確かにフランスでは、映画に対して数々の支援がなされています。特に私たちユニフランスの上部組織である国立映画映像センター(CNC)は強大な組織で、さまざまな援助を通じてフランスの映画全体を支えている。その主な財源は、映画のチケット代から税の形で徴収されているんです。韓国でもそうですね。 ―韓国はフランスをモデルにしているんじゃないですか? あなたがそうおっしゃったことにしておきましょう(笑)。少なくとも韓国のKOFIC(韓国映画振興委員会)とは盛んに情報交換をしています。めざすところはかなり似ていると思います。 いま言ったように、フランス方式が面白いのは、映画にお金を出しているのが、映画を観る人たちだということです。加えてテレビの放送局やNetflixその他の配信プラットフォームからも税を徴収し、それが映画製作費の一部となるのです。 このように考え抜かれた規則と支援の仕組みが、「映画の生態系」を作り出し、人材育成や映画祭の開催にも生かされています。 私たちフランス人は、小さいときからその恩恵を受けて育ってきました。これを与えられたものとして当然のように考えるのではなく、大切に守り育てていかなくてはなりません。私たちユニフランスもその一部として、国外でのフランス映画振興に努めているわけです。常に思考を重ね、時代の移り変わりに対応していく必要があります。 こうした仕組みや取り組みが世界の中で「文化的例外」と言われるフランス映画を支えているのです。 ―出ていくお金は大きいが、得るものも大きいということですね? 映画を含むフランス文化については、産業として直接的に国の経済に大きな貢献を果たしていますし、イメージや名声といった間接的な影響の大きさも計り知れません。 カンヌ映画祭でパルムドールを受賞した『落下の解剖学』(ジュスティーヌ・トリエ監督)は、米アカデミー賞でも5部門にノミネートされ、脚本賞を受賞しました。世界各国で配給され、どこでも成功を収めている。映画はお金がかかる事業ですが、素晴らしい投資にもなり得るのです。 投資という面では、製作費だけではなく、優れた人材の育成にもお金をかける必要がある。映画を作るのは人なのですから。映画の豊かさは、資金面だけではなく、アーティスティックな、クリエイティブな側面からも考えることが重要です。