紛争地や難民・移民の「現実」を体感したら「その先の一歩」が見えてくる 国境なき医師団「エンドレスジャーニー展」
「国境なき医師団(MSF)」が主催する企画展「エンドレスジャーニー展」(東京・丸の内にて11月4日まで開催)は、人道支援の現場や難民・移民の人たちが置かれた過酷な状況を体験できるユニークなイベントだ。その展示に込められた思いを、MSF日本事務局長の村田慎二郎に聞いた。 【画像】紛争地や難民・移民の「現実」を体感したら「その先の一歩」が見えてくる 国境なき医師団「エンドレスジャーニー展」 長期化するロシアとウクライナの戦争や、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザでの苛烈な軍事作戦により、故郷を追われた人たちについての報道に触れる機会が増えた。 世界の難民・国内避難民の数はこの10年間、右肩上がりに増え、過去最多の1億2000万人に達している。だが、戦闘や空爆、自然災害や飢餓で苦しむ人々の姿をニュースで毎日のように目にしても、それがどこか遠いところで起きているように感じる人も多いだろう。 難民の人たちは、実際にどのような生活を送り、何を考えているのか。世界的な医療・人道援助団体「国境なき医師団(MSF)」が主催する企画展「エンドレスジャーニー展・東京 終わらせたい、強いられた旅路」はその一端を鮮やかに、私たちに伝えてくれる。
紛争地や難民の「現実」を伝える
展示されているのは、MSFの人道支援の現場で実際に使われている機材や物資、難民たちが語った言葉や彼らの日常の様子だ。 悪路を移動する際に必要な四輪駆動車や、病院のない場所に設置されるテント式の手術室などの大きな展示は見応えがあるが、ごく小さな医療器具にも深い意味が隠されている。 たとえば入口で最初に目に留まるのは、小さなラッパのような銀色の物体。 電力が安定供給されない活動地で、妊婦健診のエコー代わりに使われる医療器具だ。世界各国から集まるMSFの経験豊富な医療従事者も、先進国とは違って設備や物資などあらゆるものが限られた現場では、初心に帰るような気持ちになるのだと、MSF日本の事務局長である村田慎二郎は言う。 クーラーボックスもまた、重要な役割を果たす。日本では当たり前に受けられる予防接種も、途上国や紛争地では勝手が違う。ワクチンは熱に弱い。冷蔵設備などが望めない国・地域では貴重なワクチンをムダにしないよう、クーラーボックスに大量の保冷剤をいれ、温度管理に留意しながら輸送する。 村田も、シリア北部の都市アレッポで砲撃が飛び交うなか、はしかの予防接種キャンペーンをおこなった。 ガザでも、子どもたちへのポリオの予防接種のためにたびたび停戦が呼びかけられているが、紛争地では基礎的な保健医療すら滞るため、平和な状況であれば助かる命までもが失われてしまうことも少なくない。MSFは戦闘や爆撃などで負傷した人の外科治療をしているイメージが強いが、こうした予防医療も大切な活動のひとつだという。 難民の置かれた過酷な環境を、リアルに体験できる展示もある。政治的混乱や貧困から逃れるため、アフリカや中東から地中海を船で渡って欧州を目指す人は後を絶たない。その船が出航する北アフリカのリビアには、当局に拘束されたり、道中で遭難したりした人たちが留め置かれる収容施設がある。 展示では、施設内のひとり当たりのスペースが再現されている。約70センチ四方しかなく、内部に流れる叫び声や殴打音は実際に現地で録音されたものだ。なかに実際に入ってみて、これほど劣悪な住環境で生活している人がいることに驚愕した。