紛争地や難民・移民の「現実」を体感したら「その先の一歩」が見えてくる 国境なき医師団「エンドレスジャーニー展」
「自由」の意味がわからない
人々の関心が薄れつつある人道危機に、光を当てる展示もある。2021年2月に軍事クーデターが起きたミャンマーでは、民主派や少数民族武装勢力による軍事政権への武力抵抗が続き、国内避難民の数は300万人を超えた。なかでも、2023年11月からミャンマー軍と仏教徒の少数民族武装勢力アラカン軍との戦闘が激化した西部ラカイン州の状況は深刻だ。 7月にラカイン州の州都シットウェなどを訪問した村田によれば、イスラム系少数民族のロヒンギャ市民が、ミャンマー軍、アラカン軍双方に強制的に徴兵されて戦闘に巻き込まれるなどの被害を受けており、「誰からも守られていない状態が続いている」という。 軍事政権は人道支援活動に対しても大きな制限を課しており、MSFが現地25ヵ所でおこなっていた移動診療も2023年10月末に継続することができなくなった。村田の訪問時は、9ヵ月ぶりに1ヵ所のみで移動診療が再開されており、そこに大勢の人が殺到した。「非常に多くの人が、医療を待ち望んでいることを実感した」と村田は言う。 現地で出会った20代のロヒンギャのボランティアスタッフには、「『自由』という言葉の意味がわからない」と言われて大きな衝撃を受けた。 村田はこれまでも、紛争や政治的圧力など自分にはどうすることもできない要因で、将来の希望を描くことができない人たちに数多く出会ってきた。そうした経験を通して、「日本のような国に生まれ育った自分が、夢を追いかけないのはもったいない」と感じたと、著書『「国境なき医師団」の僕が世界一過酷な場所で見つけた命の次に大事なこと』(サンマーク出版)に書いている。 村田は、今回の展示によって多くの人に人道支援の現場や難民・移民の境遇を知ってもらい、「その先の一歩」を考えてほしいと語る。 「日本に暮らしていても大変なことはたくさんありますが、ロヒンギャ難民やガザの紛争地で暮らす人たちに比べれば、恵まれた環境にあると言えるのではないでしょうか。自分がこれからどう生きるのか、『命』をどのように使うのか、このイベントがそれらを考えるきっかけになれば嬉しいです」 「エンドレスジャーニー展」では、申し込み不要・参加無料の解説ツアーがおこなわれています。スケジュールはこちら
Chihiro Masuho