ドミニカ共和国の意外な野球の育成環境。多くのメジャーリーガーを輩出する背景と理由
パワフルでダイナミックなドミニカの野球の源泉
ドミニカでは選手たちに「自分は野球が好きだ」という思いを身につけてもらうために、特に小学生年代のすごし方が重要とされています。小さい頃に「野球は楽しい。また明日もプレーしたい」と思ってもらうことが、のちに中学生、高校生、プロの選手になったときに活きてくると考えられているからです。 ドミニカの子どもたちは道端や空き地でペットボトルのキャップなどを使った野球遊びを始め、6歳くらいになると町や村のチームに所属します。「リーガ」と言われるカテゴリーで、日本の学童野球のようなものです。少額の月謝を払い、指導者に見てもらいます(チームによっては無料)。 日本との違いで言えば、使用するボールは硬式。活動は週に3、4回で、学校が休みの土曜と、平日は学校が終わった午後2時頃に集まって3時間程度活動します。ノックなど指導者に決められた練習メニューを行うのではなく、試合形式を繰り返します。バットを思い切り振り、バッティングを中心に野球の楽しさを覚えていきます。守備ではメジャーリーガーが見せるような逆シングル、ベアハンドキャッチ(素手での捕球)、ジャンピングスローにも見よう見まねで果敢にチャレンジします。 ドミニカでは日本のように県大会や全国大会はなく、近くのチーム同士、もしくは自チーム内で試合を行います。勝敗を争うというより、一緒に試合を行う仲間を求めるという意味合いでしょうか。もちろん、その中で勝利を目指してプレーしますが、指導者がバントや盗塁、ヒットエンドランなど細かいサインを出すことはありません。子どもたちはとにかく思い切ってプレーする。そうした姿勢が、パワフルでダイナミックなドミニカの野球を形づくっていくのだと思います。
指導者たちが選手の故障の可能性を何より避ける理由
12歳頃までリーガで野球を楽しんだ後、13歳頃になると「プログラム」というカテゴリーに進みます。プログラムで野球を継続する選手は3~4割というイメージです。 ドミニカを含むカリブ海諸国(プエルトリコを除く)の選手たちは16歳と半年からMLB球団と契約することができます。ドミニカでそれ以前の年齢の選手は基本的に地元のプログラムに所属し、練習や試合を通じてトライアウトに向けて準備をしていきます。 16歳のときには契約できず、17、18歳でプロになる選手も少なくありません。 プログラムでは家から通う場合もあれば、寮に住むケースもあります。プログラムの指導者の中には元プロ選手もいて、総じて選手を育成することを本職としています。しかし、選手たちに月謝は発生しないケースが大半です。選手がMLB球団と契約合意した場合、契約金の数十%が指導者に渡るという仕組みです(平均で30%程度)。言い換えるとプログラムの指導者たちは選手をMLB球団と契約させなければ自分たちの報酬もないため、故障させては元も子もないのです。 練習は月曜から金曜まで、朝8時半か9時頃に始めて11時半から12時に終わるのが一般的です。選手たちは昼食を食べ、午後から学校に行きます。ドミニカの学校は午前または午後の半日授業が基本で(校舎の数が足りていないようで、午前と午後に分けて生徒を入れ替え)、地域にもよりますが野球をしている少年たちは午後の授業を選択しているケースが多いようです。ただし、反対のケース(午前が授業で午後から練習)もあります。 土曜は半日で練習をするか、練習試合を行います。日曜はオフ。指導者も週1回はしっかり休みをとり、家族と一緒にすごします。 ドミニカの練習方法について日本の指導者からよく質問されますが、まったく変わったメニューを行っているわけではありません。ウォーミングアップ、キャッチボールを30分くらい行い、次は守備練習を15~20分。チームの内野手が 10人という場合、ショートとサードに5人ずつ分かれて、マウンドの横辺りからコーチが緩いゴロを手で転がすか、緩いノックを打っていきます。選手から見て身体の正面、右側、左側のゴロを捕り、最後に前に出るゴロを1本捕球して終わりです。これを効率よくやるので、短時間でも結構な本数を練習することができます。