鈴芽は地元の工場から東京女子プロレスのリングへ「こんなに全力で生きている世界があるんだ」
2021年1月4日、後楽園ホール大会にて、遠藤有栖デビュー戦の相手を務めた。それまでもタッグではデビュー戦の相手を務めることはあったものの、シングルでは初めて。鈴芽もまだキャリア1年4カ月だったが、自分でも驚くほど冷静だったという。 「未だかつてあんなに冷静だった試合はないです。そんななか、有栖は練習以上の力を発揮してきて、ゾクゾクしたのを覚えています。『そんなできんの!?』 みたいな」 その後、有栖とタッグを組む機会が増え、ふたりはいつしか「ありすず」と呼ばれるようになった。練習熱心な有栖は着実に力をつけていったが、試合では勝てない日々が続いた。試合で負ける度に落ち込む有栖。しかし鈴芽は「有栖が勝てないわけない」と、それほど深刻には考えていなかったという。 有栖が自力初勝利したのは、デビューから1年後の2022年1月4日。後楽園ホール大会で「ありすず」は桐生真弥&宮本もか組と対戦し、有栖が宮本から3カウントを奪った。有栖が勝てないことにもどかしい思いを抱いていた鈴芽も、大いに喜んだ。 【遠藤有栖とマジラビに挑戦するも、"タッグ力"の差で及ばず】 周囲の「ありすず」への期待が高まるなか、有栖は密かに「ひとりでは何もできないんじゃないか?」という思いを強めていったという。しかし鈴芽は「そんなことはない」と断言する。 「私はデビュー戦から『遠藤有栖はすごい』と思い続けているんです。有栖は常に過去の自分を超えていく。私だったら自分が持っているものをかき集めて、どうしたら勝てるかを考えるんですけど、有栖は勝てないなら勝てるように自分自身が進化するんですよ。それが本当にすごい」
4月9日、後楽園ホール大会にて、坂崎ユカ&瑞希(マジカルシュガーラビッツ。以下、マジラビ)の持つプリンセスタッグ王座に挑戦。有栖とのタッグ名を「でいじーもんきー」(以下、でじもん)に決め、気合を入れて臨んだ。 「マジラビさんは東京女子らしさが一番詰まっているタッグだと、当時も今も思っています。そんなふたりが持っているベルトだからこそめちゃめちゃキラキラして見えたし、私たちもその景色が見たいと思った。チャレンジマッチのつもりは全然なかったです」 しかし、マジラビにはあと一歩のところで及ばなかった。有栖は「タッグ力の差だった」と分析していたが、鈴芽もやはりタッグ力は大事だと考えているという。タッグ力とは、有栖曰く"絆"。長い月日をかけて共に闘うことで、タッグチームは完成度を高めていく。 本来、鈴芽はタッグよりもシングルのほうが好きだという。シングルは目の前の相手のことだけを考えればいいが、タッグはリング全体を見なければならず、苦手意識があった。しかし有栖とタッグを組み始め、「私がしっかりしなきゃ!」という思いから周りをよく見るようになり、タッグで闘う方法を自然と身につけた。 そのうちに有栖がメキメキと成長し、次第に有栖のことを見ようとしなくても「なんか息が合う」という状態に。タッグで闘うことの楽しさを覚えていく。 (後編:遠藤有栖と築き上げた絆 「勇気をあげられるレスラーになりたい」>>) 【プロフィール】鈴芽(すずめ) 1998年11月27日、茨城県生まれ。高校卒業後、工場の事務員として働いていたが、辰巳リカに憧れて東京女子プロレスに入門。2019年8月25日、後楽園ホールでデビュー(鈴芽&舞海魅星vs. 中島翔子&里歩)。2024年2月10日、遠藤有栖とのタッグ・でいじーもんきーで「第4回"ふたりはプリンセス"Max Heart トーナメント」初優勝。3月31日、両国国技館大会にて、水波綾&愛野ユキが持つプリンセスタッグ王座にでいじーもんきーで挑戦し、勝利。第16代王者となる。152cm。
尾崎ムギ子●取材・文 text by Ozaki Mugiko