会社に壊されない生き方 (3)モバイルハウスで得た「生きることへの自信」
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生きていくには、お金が必要だ。特に、住まいのコストは、毎月の支出の中でも大きなウェイトを占める。長期にわたる住宅ローンがあるので過重労働から逃れるわけにはいかない、という人も多いだろう。もし、このコストが「ゼロ円」だったなら、心労は一つ減るかもしれない。ミュージシャンの高橋雄也さん(25)は、移動可能な住居「モバイルハウス」に住み、家賃をはじめ電気代もゼロという生活を送った経験を持つ。はじめから会社員になるつもりはなかったという高橋さんは、「自分らしく生きること」と「人とのつながりの大切さ」をこの家から得たようだ。 会社に壊されない生き方(2)会社員時代より幸せ「ダウンシフト」という選択
制作費約7万円のモバイルハウス
午後7時過ぎの渋谷駅付近。待ち合わせ場所に現れた高橋さんは、茶色のキャリーバッグを持った黒色のスーツ姿だった。ミュージシャンと聞いていたので、サラリーマンのような外見は少し意外だったが、現在は健康関係の仕事などもしているという。 モバイルハウスは、建築家で作家の坂口恭平さんが提唱する住まいや暮らし方の構想だ。モバイルハウスの外観をざっくり表現すると、自動車抜きのキャンピングカーと言えば良いだろうか。1部屋ほどの小さな建物の下には車輪があり、その名が示すとおり、移動できる。つまり、土地に固定されていないので、建築基準法が定める「建築物」ではなく、固定資産税がかからない。材料費は数万円ほどで、自分たちで作りあげる。設置する場所を借りる費用が発生する場合もあるが、住居の賃借料や住宅ローンに比べると、たいていの場合小額で済む。必要な電気は、太陽光を含む自然エネルギーでまかなう。
高橋さんがモバイルハウスを知ったのは、都内の音楽大学に通っていたころに読んだ坂口さんの書籍だった。東日本大震災を契機に、自然と共存する生き方や社会のあり方に悩んでいた時にこの構想を知り、「これだ、と思いました」という。すでに、音楽で生きていこうと決めており、家賃や電気代がなければバイトの時間を節約でき、その分音楽活動に打ち込めるだろうとも考えた。 2013年3月ごろから、友人たちの力を借りつつ製作を開始。材料はホームセンターで購入したほか、床や外壁などに使った部材には廃材も活用した。2tトラックでも持ち運べるように、ボルトとナットを外せば分解できる構造を採用し、大工の友人たちとともに組み上げた。設置場所は、神奈川県相模原市の知人の土地(のちに山梨県上野原市に移転)、テーブルやラック、鏡といった家具は拾ってきた。 同年夏、6畳ほどの部屋にロフト付きのモバイルハウスが完成した。製作日数約20日、材料費7万円弱。完成後、翌日に授業がない日などに訪れては宿泊する、という日々を経て、2014年春の大学卒業後、本格的に住みはじめた。