【新たな挑戦ができない日本の農家】フィリピンやインドネシアで広がる遺伝子組み換え作物、新技術導入を阻むものとは?
世界26カ国、約2億ヘクタールの農地で栽培されている遺伝子組み換え(GM)作物。アメリカやブラジルなどの大規模農場で栽培されているイメージがあるが、フィリピンやインドネシア、インドなどアジアの国々では小規模農家による栽培も多い。小規模農家にとっても「農薬の削減」や「収量の増加」など大きなメリットがあるためだ。 【写真】遺伝子組み換え作物で成果を上げたフィリピンとインドネシアの農業家 日本はGMのトウモロコシや大豆を大量に輸入しているのに、栽培はしていない。なぜ栽培する農家がいないのだろうか。
GM栽培で子供3人を大学へ
11月下旬、東南アジアから2人の女性農家が来日した。フィリピンのロザリー・エラサスさん(64歳)とインドネシアのファウシク・レスタリさん(49歳)で、2人ともGMコーンを栽培する地域農業の女性リーダーだ。来日は「遺伝子組み換え作物の映画実行委員会」の招きによるもので、日本でのGM栽培の可能性を探るシンポジウムに登壇しそれぞれの体験を語ってもらった。 エラサスさんは夫を亡くし、3人の子供を育てるための収入を得ようと就農。2000年に貯金をはたいて1.3ヘクタールの農地を購入し、農業専門学校で農作業の基礎を学んだ。同校ではバイテク農業の講義もあり、GMに興味を抱いたエラサスさんは03年、試験的に害虫抵抗性(Bt)のGMコーンと非GMのコーンの両方を栽培してみた。 フィリピンでのコーン栽培は害虫との戦いだ。とくにアワノメイガという蛾は最大の敵で、農家はこの蛾を駆除するのに農場を頻繁に見て回り、手で蛾や卵を取り除いたり殺虫剤をまいたりと大変な労力を強いられる。 GMコーンではこうした手間がいらず、農薬は栽培中に除草剤を1回まくだけ。しかも害虫被害がないことで収量が従来品種の約2.3倍となった。この結果から、エラサスさんは農地すべてでGMコーンを栽培することとし、現在は自身の農地と合わせて約12ヘクタールでGMコーンを栽培している。
エラサスさんは「GMコーンは非GMよりも品質がよく、より高く売れる。子実だけでなく、茎や葉、穂軸は飼料やキノコ栽培に利用されており、無駄になるものがない。GMコーンの栽培で収入が増え、おかげで3人の子供を良い大学に行かせることができた」と満足げだ。 インドネシアのレスタリさんがGMコーンの栽培を始めたのは23年から。除草剤のグリホサート(製品名ラウンドアップ)に強い耐性のある新品種で、栽培中にグリホサートを1回まけばコーンは枯れずに雑草だけが枯れる特色に魅かれ栽培を決意した。 1ヘクタールの農地で栽培したところ、従来品種に比べ収量が増え、除草剤の使用が大きく減った。種子の価格はGMの方が非GMより高いが、除草剤の削減コストや収量増による販売額の増加がそれを上回っており、トータルでみれば収入が増えた。 また、雑草管理が楽になり、農業経営への負担が減った。レスタリさんの住む地域では、GMコーンの栽培面積の割合が23年は20%だったが、今年は40%に増えた。 レスタリさんは「GMコーンにしたことで収入が増えただけでなく、自由になる時間が増え生活も豊かになった。私の住んでいる地域でGMに反対する人はいないわね。農業を発展させるために新たな技術を使うことをみんな理解しているから。何よりもよい品種を選ぶことが収量増になり収入が増えるので、GMを利用する人が増えたのでしょう」と話す。