【新たな挑戦ができない日本の農家】フィリピンやインドネシアで広がる遺伝子組み換え作物、新技術導入を阻むものとは?
消費者、近隣農家…日本での高いハードル
シンポジウム後のアンケートでは「途上国でGM作物を栽培する女性の農家が利益を上げて生活の質を向上させている姿を初めて見た。この実態をもっと日本の農家に知らせていくべきだ」との意見が多く寄せられた。また、あるメディアの記者は「小規模農場ながらGMコーンの栽培が成果をあげている点は、私の郷里の岩手など過疎地の農家が生き残っていく道を示しているように感じた」と話していた。 GMに好意的な意見が多いが、実際に日本でGMを栽培できるかはまた別の話で、栽培には大きなハードルがある。ひとつは消費者の反応だ。 GMは農家にはメリットがあるが、消費者にはメリットが見えない。食料自給率や食料安全保障の強化、コーンや大豆などの価格上昇の抑制などを考えれば、消費者にもメリットがあるのだが、直接的なメリットを感じないこともあり、消費者の支持が得られにくい。実際に栽培が始まれば、消費者の不安をあおるフェイクニュースなどが広まるなどし、栽培する地域全体の農作物が風評被害で売れなくなる可能性がある。
消費者だけでなく、近隣農家の反対も懸念される。インドネシアのレスタリさんは地域の反対はなくGM栽培が可能だったというが、日本の場合、GMへの理解が農家の間でも進んでいないこともあり、近隣農家の了承を得られるかは分からない。風評被害がGMを栽培しない農家にも及ぼす懸念もあり、むしろ反対することも起こり得る。 仮に地域の了承が得られ栽培できたとしても、GM反対を掲げる活動家が全国から押し寄せて嫌がらせをされるかもしれない。過去には試験栽培で植えたばかりのGM作物の苗が引き抜かれる〝事件〟もあった。 当時のことを知る関係者によると、警察に相談しても何の対応もしてもらえなかったという。これだけが原因ではないだろうが、その後に多くのGMの試験栽培が中止され、本格的な商業栽培が行われないままだ。 反対派の圧力に屈したままというのもどうかと思うが、これまでは日本の食料供給が足りなくなるといったこともなく、何の不都合もなかった。あえてGMを利用する必要がなかったともいえる。