【新たな挑戦ができない日本の農家】フィリピンやインドネシアで広がる遺伝子組み換え作物、新技術導入を阻むものとは?
バイテク技術活用は必須
しかし、日本がおかれた現状を考えれば、GMを含めたバイテク技術の活用は必須だ。農業法人トゥリーアンドノーフ代表で、日本バイオ作物ネットワーク理事長の徳本修一さんは「これまではバイテクがなくても農業ができたが、これからはそうはいかない」と指摘する。高齢化と担い手不足で農業経営体あたりの耕作地面積が増えているためだ。 徳本さんの場合、現在110ヘクタールを3人でオペレーションしているが、2030年には1000ヘクタールへの拡大を見込んでいる。「生産力を維持するには今までのやり方では無理。日本の農業は雑草との戦いなので、除草剤耐性のGMなら利用する農家が多いだろう」。 徳本さんは現在、日本でのGM栽培を模索中という。ただ、新たな挑戦はリスクもともなう。反対派からの嫌がらせで苗が抜かれたり、収穫した農作物のリスクをあおるフェイクニュースを流されたりすれば、農業経営を危うくしかねない。 しかし、徳本さんは「当時は泣き寝入りするしかなかったかもしれないが、今は誰もが情報を発信できる時代。もし私の農場で同様のことが起きたら、ありのままを撮影して世界に発信したい。GMに限らず新しい科学技術に不安を抱く消費者は多い。でも、情報をみせていくことで、そうした不安は払しょくされていくと思う」。
ファーストペンギンは生まれるのか
日本では、コーンや大豆、ナタネなどで年間約1800万トン(22年)のGM作物を輸入していると推定される(バイテク情報普及会調査)。この6~7割が家畜の飼料用だ。 飼料価格はこの数年、円安やウクライナ情勢など国際情勢の影響を受け価格が高騰しており、酪農・畜産農家の経営を圧迫している。せめて今輸入している飼料の何割かを日本で栽培していけば、酪農・畜産農家の経営安定化につながるのではないか。 現状では輸入飼料の方が安いため、国内で栽培しても買ってもらえず意味がないと思うかもしれない。しかし、日本でも飼料用のGMコーン栽培ができるという実績をつくれば、栽培規模が大きくなり、価格も海外に対抗できるようになっていくはずだ。例えばインドネシアでは20年ごろに約13%だった家畜飼料の自給率が、GM作物の導入により23年には約70%に達している。 もちろん日本とインドネシアでは農業が置かれた環境は違うが、食料安全保障という意味でも、GMによる飼料用作物の栽培を検討すべきではないか。飼料用だけではない。日本は現在、持続可能な航空燃料(SAF)のバイオ燃料としてブラジルやアメリカから穀物由来のエタノールを輸入しようとしている。耕作放棄地でGMのコーンや大豆、コメを栽培しバイオ燃料とすれば、農地の有効活用や地域活性化に寄与するのは明らかだ。 日本ではコメから他の作物への転作支援に年間約3000億円もの税金が費やされている。水田を有効活用し食料の安定供給に資することを目的としているが、であればGM作物の導入でコメやコーンの栽培規模を拡大させることが必要なのではなかろうか。こうした補助金はそれをもらうことが目的となり、むしろ農家の新しい挑戦を阻んでしまう可能性もある。巨額の補助金が不要になる農業経営を図ることが農業界にとっても日本財政にとってもメリットは高い。 日本でも成功例が出れば、それに追随する農家は多いはず。日本でGM栽培に挑戦するファーストペンギンの登場に期待したい。
平沢裕子