美術監督・種田陽平が語る「デ・キリコがアニメ映画与えた影響とは?」
■ようやく時代がデ・キリコに追いついた 僕が最近気になっているのは、デ・キリコとアニメ映画の関係性です。彼が描く空って緑色なんです。昔の映画やアニメでは、空が緑色で表現されることはありませんでした。ジブリの映画が典型的ですが、日本人は空は青いものだと思っていますよね。ところが、21世紀以降のSF映画やアニメでは、よく緑色の空を見かけるようになりました。例えば、Netflixで世界的に人気の「アーケイン」を見ると、緑と茶色の配色が目立ちます。閉ざされた空間性なども、どこかデ・キリコ的なんですよね。 ――現代のアニメやマンガに影響を及ぼしているのでしょうか? そう思います。デ・キリコは「20世紀に与えた影響が大きい」と言われてきましたが、僕は、20世紀の時点では早すぎたと思う。彼の謎めいた世界は、映画『マトリックス』シリーズなど、むしろ21世紀に入ってからのほうがよく見かけるようになっています。 ――それはなぜなのでしょうか? 今は環境問題や戦争など、地球や人類が危機的な状況にあるんだという考えが強まっているんじゃないでしょうか。そういう地球から宇宙へと逃げ出したい。そんな時代感覚がSFのベースにあるのだと思いますね。でもそのような閉塞感の中に、ドラマの兆しがあるようにも感じます。先入観なしにデ・キリコの作品を見れば、SFアニメの設定デザイン集のように見えて、とても新鮮かもしれません。 種田陽平(たねだ・ようへい) 日本を代表する美術監督の一人。国内外の映画、舞台、東京2020オリンピック・パラリンピック開閉会式ステージデザインなど、映像と空間の美術を担当。2010年芸術選奨文部科学大臣賞、2011年紫綬褒章を受ける。
書籍編集部