なぜ伊調はアジア選手権で敗れたのか?五輪5連覇は難しいのか?
東京五輪での5連覇を狙う女子レスリングの伊調馨(34、ALSOK)が27日、アジア選手権から帰国した。2016年のリオ五輪以来となる国際大会復帰となった伊調は57キロ級の準決勝でチョン・ミョンスク(北朝鮮)に敗れ3位に終わっていた。試合復帰してから約半年。完全復調とはいかないものの、大会前には「格が違うでしょう」と圧勝が予想されていた大会だっただけに国際試合における2年ぶりの敗戦はショッキングな結果だった。 伊調はなぜ敗れたのか。五輪5連覇はやはり難しいのか。
「腰高になっていた」
成田空港内で開かれた選手団の会見で、伊調は「大会に参加できたこと、(ルール変更による違いを)経験できたことすべてが収穫」と、振り返ったが、敗因については「いろんな原因が重なった」と述べ、対策については「秘密です」と多くを語らなかった。 ただ「いろんな原因」のひとつとして「腰高」になっていたことについては言及した。準決勝で敗れた相手、チョン・ミョンスクは試合開始から25秒ほどで、伊調が不用意にふわりと立ったように見えた瞬間を見逃さず、タックルに入って2点を得ている。その後、何度かタックルに入られているが、似たようなタイミングで合わされていた。 「昔から腰(の位置)は低い方ではなかったのですが、57kg級という階級にしたことで、周囲は自分よりも小柄な選手ばかり。そのなかで腰高では問題があるので変えていかないと、とは思ってきたのですが、なかなかうまくいかない」 2013年の世界選手権までは63kg級で、その翌年からリオ五輪までは58kg級で戦ってきた。2年8か月前とは、わずか1キロしか違わないが、この1キロの差は大きい。しかも、計量時間が試合前日から現在は当日朝へと変更になっている。そのため、世界を見渡すとかつて戦ったライバルたちは上の階級へ変更、もともと減量がなかった伊調は1キロくらいの差ならと57kg級にとどまった。しかし対戦相手は、以前ならより軽い階級に出場していた選手たちだ。 実際、今大会の出場選手たちと並ぶと、伊調は大柄な部類に入る。伊調の身長は166センチだが、準決勝のチョンは161センチ。決勝でチョンを下して優勝した昨年の同級世界王者、栄寧寧(中国)は158センチだ。もともと腰の位置が高くなってしまうくらい、大きさに違いがある。ちなみに、日本代表を争っている階級違いのリオ五輪金メダリスト、川井梨紗子(24、ジャパンビバレッジ)は159セ ンチ。どうしても伊調の腰の位置は高くなる。 腰の位置の高さに次いで気になるのは、テクニカルポイント(技術的な攻防による得点)で先に失点しているところだ。この場面を見て、思い出されたのがリオ五輪決勝で失点した場面。 リオ五輪決勝では、テクニカルポイントは先に奪われていた。そのときは、伊調が先にタックルを試みた直後、腰が浮いた瞬間に片足をとられ、こらえたが防ぎきれず2失点した。その後、試合終了間近に逆転して伊調は4度目の五輪金を手にしている。しかし、この試合の経過を見て他国のライバル選手の間では「腰が浮いた瞬間、積極的に攻撃する」という戦術が、伊調対策の一つとして共有されたのではないか。