動物行動学のプロが”野犬”の「預かりさん」に。里親に出すために必要な2つのこと
自分たちを捕まえる怖い人間
ブリーダーさんから来た子犬が人を怖がらないのは、母犬が人に警戒心を抱いてないからです。飼い主と母犬の間に信頼関係があれば、そばにいる子犬も人を怖がることはありません。 一方で飼育経験のない野犬にとって、人間は自分たちを捕まえる怖い存在です。つねに警戒心マックスで接します。それを見てきた子犬もそう簡単には心を許しません。人間は信用できないし、期待も持てないのです。 今回の「預かりさん」としての私の役割、それは、2匹の子犬の警戒心を解き、人間を好きになってもらうこと。そして、人と一緒にいることの心地よさを知ってもらうことです。 次の里親さんの家で幸せになるためには、その2つは絶対に必要です。 そのためには、怖い思い、嫌な思いはさせられません。私も意識して甘やかしています。 夜中に大運動会を繰り広げても、タオルや靴下をかじって穴をあけても、ベランダの植木鉢を倒して土まみれになっても、なんとか笑顔をつくり、「いいよ」「いいよ」と優しく声をかけるようにしています。家族にもそこは理解してもらっています。 とはいえ、トイレトレーニングに失敗して、部屋のあちこちにうんちをまきちらし、さらにその上を走り回れば、2匹はうんちまみれです。シャワーが嫌いでも、そこはとっつかまえて洗いはしますが。 こうして2週間がたつうちに、ポテトはだいぶ慣れてきました。抱っこは気持ちがいいようで、そのままうっとりした顔で寝ることもあります。 一方のパンプキンはまだまだです。おやつは手からしかもらえないので(人の手に慣れるための練習)、ポテトがもらうのを見て、近寄っては来るようになりましたが、抱っこも撫でられるのも嫌。まだまだ人間が怖いのです。こうした警戒心の強さは、個性というか、持って生まれたものなのでしょうね。 ◇野犬と野良犬、呼び方は違えど、そこに明確な区分はない。どちらも「飼い主がいない」犬である。 だが、保護活動の面から言えば、両者には大きな違いがある。過去に人間と信頼関係を築いたことのある犬は、再び人を信頼できるというのだ。 はるか先生は、「前に飼われていた経験があり、今、飼い主不在」の犬を「野良犬」と呼び、「人から飼われたことも、餌をもらったこともない」野生動物状態の犬を「野犬」と呼んでいた。
高倉 はるか(獣医師・ペットライフアドバイザー)