動物行動学のプロが”野犬”の「預かりさん」に。里親に出すために必要な2つのこと
2カ月で24頭の野犬の引き取り依頼
近年、野犬のニュースで騒がしい。 今年だけでも、1月の朝日新聞デジタルで「野犬のまち」と呼ばれる山口県周南市、7月と9月に毎日放送および毎日新聞デジタルで和歌山県雑賀崎周辺の野犬、10月の「スーパーJチャンネル」では茨城県で急増する野犬の群れなどの特集が、また、同月のNHK「クローズアップ現代」では、野犬の問題は山口県周南市、和歌山県雑賀崎地区だけに留まらず、九州、中国、四国、関東でも年間1000頭を超える野犬が保護されているなどの報道があった。 【写真】動物支援団体ワタシニデキルコトに送られてきた野犬の子犬たちの様子 FRaU web連載でもおなじみの動物支援団体「ワタシニデキルコト」代表の坂上知枝さんも、「周南市では、市の職員も現地のボランティア団体も捕獲とその後の譲渡などに必死に取り組み、被害は少し減ってはきているのですが……。ただ、野犬の引き出し依頼は、ほかの地域からもあります」と話す。 坂上さんと「ワタデキ」にとっても、この問題は深刻だ。 10月16日に山口県のセンター収容の野犬の子犬2匹、24日に2匹、30日には3匹、11月に入ると、香川県で生後3週間の野良犬の子犬7匹の引き取り相談が、そして30日には山口県のセンターに収容された13匹の野犬の子犬に命の期限がついたと、現地の保護活動家さんから相談があったのだ。
保護した犬にやるべきこと
収容施設を持たないワタデキにとって、「引き受け」は簡単なことではない。まず一時保護を引き受けてくれる「預かりさん」を探し、引渡し前に健康診断と必要な医療を受けさせる。子犬一匹、引き出せば、健康診断などの検査とワクチン投与、駆虫、ケガや病気が見つかれば治療も必要で、フードやシートなどの消耗品、現地からの輸送費などを含めると、初期費用だけで、最低でも1匹5万円はかかる。 自治体などからの補助はなく、チャリティイベント活動と寄付、足りない分はメンバーの自己負担となる。 「月曜日が命の期限です、と聞けば、目の前にいる子犬全部引き出したくなる。でもその後にかかる時間と費用と預かりスペースを考えれば、不可能ですよね。 今のところは地元の保護団体さんと話し合い、手分けして引き受けるようにしていますが、地元の預かりさんもワタデキに登録くださっている預かりさん宅も、そろそろ限界かもしれません」 「ほとんどいたちごっこ」というその背景には、むやみな餌やりと、「避妊・去勢はかわいそうだというような意識があったり、また、自由にしてあげたほうが幸せではないかということで放し飼いにしたりとか、何らかの理由で飼えなくなった場合、捨ててしまうということを起こしやすい」(帝京科学大学 佐伯 潤教授「クローズアップ現代」より)などの理由がある。 東京大学、および大学院で獣医学を学び、在学中にカリフォルニア大学デービス校付属動物病院にて行動治療学の研究をされた高倉はるか先生の連載。 前回は、はるか先生がワタデキの「預かりさん」を始めた経緯からお伝えしている。 9月にやってきた3歳の保護犬「アロイ」は、最初は人馴れせず、散歩も怖がって行けなかった。だが、先生の家で過ごして3週間、自発的に散歩に出るようになり、無事に譲渡へと進み、今では里親さんのところで幸せに暮らしている。 今回、はるか先生は、ワタデキ代表の坂上さんから「野犬の子犬を2頭、お願いできないか」と頼まれた。10月に相談のあった、山口県周南市からの子犬である。 これまで多くの犬を飼い、診察も含めて見てきたはるか先生だったが、野犬の子犬を飼育するのは初めてである。 以下、はるか先生の言葉でお伝えする。