ノーベル平和賞を狙う?...第2次トランプ政権の中東政策の行方
<極端なまでのイスラエル寄り政策をとった第1次トランプ政権だったが、同じ路線を踏襲するのかは現時点では未知数。その「キーマン」をめぐり、すでに中東の要人たちはすでに動き出す...>
ドナルド・トランプが、第47代アメリカ大統領として復活することになった。戦火に揺れる中東とどのように向き合うのかは、大統領選から具体的には見えてこない。 【動画】今年7月、トランプ前大統領と面会したネタニヤフ首相 選挙の争点の1つでもあったイスラエルの戦争について「自分が大統領だったら起きていない」と発言するも、どう終わらせるかには結局触れなかった。 イスラエルに対して「早く仕事を終わらせるべきだ」と言及した際も、それが戦争終結か、それともハマス殲滅か定かにはせず、その姿勢は謎のままだ。 そのトランプは2017年からの1期目では、極端なまでの親イスラエル政策を取った。国際社会が首都と認めていないエルサレムをイスラエルの首都と宣言し、エルサレムに大使館を移転。国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)などの国連機関に対し、反イスラエル的だとして拠出金を停止した。 外交面では、イスラエルとアラブ諸国との国交正常化を仲介している。ただし、これらの政策は、20年大統領選の再選に向けて、強力なイスラエル支持で知られるキリスト教福音派の取り込みが狙いだった。 トランプは次回28年の大統領選には立候補できない。有権者を取り込む必要がないトランプの政策の決め手となるのは何か。それは「トランプ・ファースト」、つまり本人の利益にかなうかどうかだ。 トランプの大統領補佐官を務めたジョン・ボルトンも指摘するように「1期目のような親イスラエル政策を取るかどうかは全く不透明。そうなる可能性もあるが、本人にとって利益になるかどうかが一番」なのだ。 政権の布陣も鍵を握る。前政権では熱心なキリスト教福音派信者のマイク・ペンスが副大統領、同じく福音派のマイク・ポンペオが国務長官を、また娘イバンカの夫で敬虔なユダヤ教徒である娘婿ジャレッド・クシュナーが上級顧問を務めた。 だが、クシュナー夫妻は今回の選挙戦には直接的には関わらず、政権入りの予定はない。次期副大統領J・D・バンスに至っては、「ホロコーストは意図的ではなかった」と発言した保守派ジャーナリストを批判せず物議を醸すなど、イスラエルに対する姿勢は未知数だ。 しかし、政権の布陣がどうであれ、アメリカ外交にとって中東地域が重要であることに変わりはない。特に第2次トランプ政権における中東政策の目玉の一つはイスラエルとサウジアラビアの国交正常化であろう。 イスラエルのネタニヤフ首相は今年7月にアメリカ訪問した際に早速トランプと会談するなど、秋波を送り続けてきた。また、サウジアラビアのムハンマド皇太子も前政権時代から良好な関係を続けている。 サウジアラビアは昨年秋頃にはイスラエルとの国交正常化も目前とも言われていたが、ガザでの戦争を契機に「パレスチナ国家なくして国交正常化なし」と原点回帰した。 サウジ国内で対イスラエル感情が悪化するなかで、パレスチナへの手当てなく国交正常化を進めれば、王室への反発につながりかねない。39歳の若き皇太子にとっては、長く安定した王室運営が何より優先だ。 だが、もしサウジアラビアがパレスチナ国家樹立を条件にイスラエルとの歴史的な国交正常化をトランプに提案したとしたら、どうか。トランプは既に独自の「2国家解決案」を提示したこともあり、実現すればノーベル平和賞ものだ。目立ちたがり屋のトランプなら狙ってもおかしくない。 ネタニヤフ首相もムハンマド皇太子も大統領選での勝利を受けてトランプと早速電話会談し、直接祝意を伝えた。「トランプ・ファースト」が生む、変化と緊張の中で「ディール・メーカー」の取り込みをめぐる綱引きは、既に始まっている。
曽我太一(ジャーナリスト)