【トランプ敗れ、ハリス勝利か?】それでもハリスに立ちはだかる米国特有のある事情、テレビ討論会だけでは判断できない
アジア系もマイナスに?
このような懸念に加えて、ハリスがアジア系であるという点も忘れてはならない。もしかするとハリスの当選にとって一番の障害となるのはアジア系であるということかもしれない。 ハリスは母親がインドからの移民である。アジア系移民は、主流派の白人や、かつて奴隷として白人に無理やり連れて来られてしまった黒人と違い、いまだに米国社会において「未知なる他者」という立場を脱却できていない。 何世代も前にカリフォルニアに移民したアジア系の移民で、曾祖父の代から英語しか話さないアジア系米国人も、アジアの国名を期待されて頻繁に「どこから来たのか」と聞かれる。そこで「オークランド」と答えると、「いやそうでなくて出身地だ」と聞き直される。アジア系のその顔立ちが、米国社会にとっていまだに外来者と映るのである。米国に移民したばかりのメラニア夫人のような東欧出身の白人があっという間に溶け込むのとは対照的である。 しかもアジア系という属性は、今回の選挙での重要争点の一つである移民政策を語る上でもマイナスに働く。今回のテレビ討論会では、取り上げられたトピックの多くで、ハリス優位との調査結果が出たが、トランプ優位と出た数少ないトピックの一つが移民政策である。トランプが当選した方が移民政策を厳しく実施してくれそうで、アジア系のハリスが大統領になると、より多くの移民が流入するのではないかとの懸念がついてまわっていることがわかる。
米国社会は多様性を選ぶのか
加えて、ハリス本人の実力も未知数である。ヒラリー・クリントンの場合は、ビル・クリントン政権において医療制度改革を任され、その後、ニューヨーク州選出上院議員をつとめ、加えて、国務長官という国政上の重要ポストも担うなど、ホワイトハウス入りしたその日から仕事を始められるといわれたものである。 それに対して、ハリスは副大統領就任後、短期間で多くのスタッフが辞めてしまうなど人間性に問題があるのではないかという声もある。また、副大統領として目立った業績も上げていない。 今回の選挙で、ハリスが担っているのはトランプ的なものへのアンチテーゼとしての役割である。白人男性が国を率いるという「古き良き時代」に戻そうとするトランプを阻止するために、多様性を認める社会の象徴として女性でアフリカ系でアジア系であるハリスがいる。 2020年には、同じ役割を担ってバイデンがいた。ただ、バイデンは政治経験豊富な白人男性であり、多くの人は安心して票を投じることができた。今回はどうだろうか。 今回の選挙は、トランプ的なものにどれだけノーと言いたいのか、その試金石となるだろう。多様性を認める未来ということで押し切る力がハリスにあるのか、米国民にその覚悟があるのか、それが問われている。
廣部 泉