世界最大級の淡水魚ピラルク、保護策の決め手はなんと「水揚げ」、約600%増の回復
空気呼吸を行い、大きな鱗はよろいのように硬く、先住民の神話にも登場する驚異の魚
アラパイマ(ピラルク)の頭部は灰色がかった緑色をしているが、背中には赤い鱗が広がり、繁殖の時期になると、体の中から発光しているかのように輝く。この魚に関しては驚くような事実がいくつもある。 ギャラリー:瀬戸際の巨大魚たち まずは空気呼吸も行うということだ。息継ぎをするには水面に顔を出さなければならない。大きな鱗はよろいのように硬い。そして、さばけば70キロ近くの魚肉が取れる。鱗がある淡水魚としては世界一大きいのだ。 アラパイマの南米大陸における歴史は古い。空気呼吸をするのは、数百万年前に現在のアマゾン盆地を占めていた、浅くて酸素の少ない湖で進化したからだ。 地元では、ヨーロッパ人が侵入する以前からこの魚を食べていたという考古学的証拠もあり、先住民の神話にも登場する。今も文化的・経済的価値が高く、重要な食材であり、漁師たちは何世代にもわたって、その肉と皮の販売収入に依存してきた。 1990年代には、アラパイマの漁獲量の減少は誰の目にも明らかになった。かつて養魚場や漁場の役割を果たしていた多くの湖から、その姿が消えたのだ。リベイリーニョと呼ぼれる、ジュルア川の川沿いに暮らす人々にとって、漁業の崩壊はコミュニティー全体の破滅を意味する。家々は収入と日々のたんぱく源の両方を失いつつあった。 1999年、政府の支援するマミラウア持続可能開発研究所は、科学と伝統的な知識を併用しながら、画期的な規制の策定に協力した。その結果、研究者たちがジュルア中部と呼ぶ150万ヘクタール超の氾濫原にあるコミュニティーが管理するほとんどの湖で、外部からの船の進入が禁止された。その協定は今も続いており、年に1度、5日間だけ集中的に漁を行っている。
地元の人々が自らの利益のために保護
野生生物を保護するための漁業協定は、ほとんどの人にとってさほど珍しいものではないだろう。しかし、私がジュルア中部のコミュニティーに注目したのは、「アラパイマ・モデル」と呼ばれるこの保護計画の最重要項目として、捕った魚を地域内で分配することが定められていたからだ。 ジュルアのリーダーのなかに、アマゾンのゴム樹液の採集を行う家の出身者がいたことは偶然ではないだろう。 彼らの親族は50年ほど前、ゴムの木から樹液を採取する「タッパー」と呼ばれる労働者の組織化を実現するための運動に携わっていた。タッパーたちは、自分たちの生活の糧となっているゴムの木が、土地を牧場に転用するために焼き払われているとして、アマゾンの森の危機を訴え、また、彼らの大半が半奴隷状態で働かされていることでも、世界の注目を集めた。 こうしたタッパーたちの運動には苦労も多く、時には暴力にも見舞われた。しかし、彼らの闘争はアマゾニアで最初の「資源の採集が許された保護区」、つまり、地元の人々が自らの利益のために、政府の保護する森林を管理する地区の誕生に貢献したのだ。 アラパイマ・モデルの施行には、こうした背景があり、その素晴らしい成果は、データでも証明されている。研究者の推定によれば、保護区域の多くでアラパイマの個体数が600%近く増加しており、今や短い漁期の間に何百匹も水揚げされる。 ※ナショナル ジオグラフィック日本版10月号「水に浸かる低地の森林で学んだこと 脈動するアマゾンの水」より抜粋。
話=ジョアン・カンポス=シルバ(生態学者)/聞き手=シンシア・ゴーニー(ジャーナリスト)